一発の銃弾が参院選以上に政治に影響力を持とうとしている
安倍晋三元首相が選挙演説中に銃撃され亡くなる(7月8日)という衝撃的な事実を前にして、参院選(同10日投開票)の結果について語る気持ちがなかなか起こらない。あってはならない事件であることは言うまでもないが、この凶行の結果、参院選の結果以上に「安倍氏の突然の不在」が今後の政治に大きな影響を及ぼしかねないことがやりきれない。
民意の反映である参院選の結果以上に、有力政治家の命を奪った一発の銃弾の方が政治の動きに影響力を持とうとしている。容疑者の犯行の動機のいかんにかかわらず、この1点だけを見ても、事件は間違いなく民主主義を毀損しているのだ。
そうは言っても、現実に参院選は終わった。ともかく、今回の参院選が、特に野党陣営に与える影響について、思うところを記したい。
今回の参院選は立憲対維新の準決勝だった
衆院選と参院選の選挙制度は、似ているようで違う。衆院の選挙区はすべて定数1の小選挙区だが、参院には複数区が存在する。衆院の比例代表は全国11ブロックに分かれているが、参院は全国1区だ。そのため、参院選では衆院選に比べ、中小政党が当選しやすい。れいわ新選組やNHK党、参政党といった新興の小政党が注目されるのが必ず参院選であることも、こういう選挙制度の違いが背景にある。
参院選は、単なる与野党対決だけでなく「野党間競争」の側面を持ちやすい。特に、衆院で野党の中核となる政党がしっかりと確立していない「野党多弱」の状態にある時は、野党の中核ポジションをどの野党が取るか、という競争が発生することになる。
今回の参院選は、野党第1党の立憲民主党と、第2党の日本維新の会が「次期衆院選で自民党と政権を争う相手にふさわしいのはどちらか」を争う準決勝のような位置付けがあった。立憲は昨秋の衆院選で公示前議席を下回り、維新は大きく伸ばしている。攻め上がる側の維新には、明確に「いずれ立憲に取って代わる」という意識があった。