「体験」を通してリーダーの意識を改革

【木下】次に、インクルーシブリーダーシップに関する取り組みをご紹介ください。

【本島】D&I戦略はダイバーシティの実現だけでは不十分で、結局インクルージョンがいちばん大事なのではないかと思います。誰もが「自分も主力の一人である」「会社の外側ではなく内側にいる」と感じられる状況をつくらなければなりません。

そのためには、組織の長に「インクルーシブなリーダーシップ」を身に付けてもらうことが重要です。ただ、言葉の意味はわかっていても、どう実践すればいいのかわからないという人が多いので、取り組みとしては体感してもらうことに力を入れています。

具体的には、役員と数人の社員がフラットに話し合うオンラインゼミ「e-ビジネスゼミ」を開催しています。昨年は、5人の役員がそれぞれ6人の社員と一緒に、「入社したいと思わせる会社とは?」「MS&ADの株価をどのようにして上げるか」といったテーマで意見交換しました。

【木下】役員の方々にインクルーシブリーダーシップを体感してもらったわけですね。

【本島】その通りです。ただ、最初に私がお願いしたときは役員の方々も戸惑って、「何を教えたらいいかな」「何を課題図書にしようか」と悩んでいました。つまり、自分の役割は教授であり、社員に何かを教える立場なのだと思ったんですね。しかし、そうした姿勢ではインクルーシブを体感することはできません。

そこで、これは社員とフラットに話し合う体験をするための場なのだと伝えて、そのための研修も行いました。ゼミには教授としてではなく「自分もわからないから皆の意見が聞きたいんだ」という姿勢で臨んでほしいと。

この研修を通じて、私も含めた役員全員が「自分は導く側、仕切る側だ」という思い込みから解放されました。結果として、ポジションに関係なく本当にフラットに、一人の参加者として社員の話を聞くことができ、私にとっても非常に新鮮な経験になりました。

【木下】参加者の反応はいかがでしたか?

【本島】社員からは「役員や会社との距離が近づいた」、役員からは「会社を身近に感じてもらえたという実感があった」「社員が何を感じながら働いているのか知ることができた」といった声が上がりました。「このゼミをもっと広げていけば組織文化も変わっていくだろう」という応援メッセージもいただきました。

もうひとつ、インクルージョン体験を目的とした、外国人講師によるオンライン講座も実施しました。講演視聴後には、多様な考えや意見を引き出す機会としてフランクな意見交換会も行いました。

対談の様子
撮影=小林久井(近藤スタジオ)