社外取締役として派遣する取り組みも

【木下】女性役員の誕生を待つのではなく会社が育てていこうと。すばらしい取り組みですね。

【本島】もうひとつの取り組みとして、2019年度から女性部長を関連事業会社へ非常勤の社外取締役として派遣しています。任期は2年で、これまでに延べ20人を派遣してきました。対象者の皆さんには、定期的に取締役会に出席して経営レベルの意思決定を経験してもらっています。

この取り組みには、こうした研修的な意義に加えて、派遣先の多様性を少しでも確保したいという狙いもあります。派遣先の取締役会メンバーはほとんどが男性です。そこに女性に加わってもらうことで、派遣先の会社にも多様性を体感してもらいたいと考えました。

派遣した女性からは「普通の研修では得られない貴重な経験ができた」、派遣先からは「違う角度からの新鮮な意見を聞けてハッとした」といった声をもらっています。当初はなかなか自分の意見を言い出せない女性もいましたが、役員をメンターにつけ、助言を続けることで意思表明できるようになっていきました。

【木下】女性だけを対象にしたことで「男性差別だ」という声は出ませんでしたか?

【本島】内心は分かりませんが(笑)、表立っては聞こえてきませんね。でも、部長以上の層では女性比率が低いという現状が確かにあるので、もしそんな声が聞こえたとしても、構わず強力に進めていこうと思っています。

私の場合、取り組みを進めるうえでは男性役員を巻き込むよう意識しています。「女性部長の意見交換会に出てください」などとお願いしていますが、嫌がる方はほとんどいません。逆に「僕で役に立つなら何でもやるよ」と声をかけてくださる方が多くて心強いです。

確かに以前は、女性の登用を進めていく過程で「これじゃ男はやる気がなくなっちゃうよ」と言われたこともありました。でも、トップが確固たるメッセージを発したこともあり、D&I担当役員になってからは壁を感じることなく取り組みを進めることができています。

【木下】他社では、女性活躍を進めようとして男性陣の抵抗に遭う人事担当者も多いようです。どう説得すればいいのでしょうか。

【本島】トップメッセージが全社に明確に伝わっていないと、正直、D&Iを推進するのはかなり厳しいだろうと思います。当グループでは、幹部が集まる場や公式サイトなど、ありとあらゆる場でトップにD&Iの意義を発信してもらっています。加えて、一時的な発信では浸透しませんから、あらゆる場でことあるごとに発信し続けてもらうようにしています。

木下明子編集長
撮影=小林久井(近藤スタジオ)