「慢性の下痢」3種類

① 過敏性腸症候群

機能性下痢の慢性化とでもいいましょうか。ストレス等が引き金といわれています。下痢や便秘、腹痛が起こります。

下痢型、便秘型、下痢と便秘の交互型の3タイプがあります。医者はストレスを除くよう指導しますが、それができない人が慢性化しているのでなかなか難しい話です。

朝お腹が痛くなり、通勤や通学の途中で便意を催す等、本人にとってはとても辛いものです。牛乳や冷たい飲み物、食物繊維を減らして、あまり神経質に考えすぎないようにしてみて下さい。

② 潰瘍性大腸炎

原因がまだはっきりわかりませんが、免疫系の過剰攻撃が考えられています。症状的には過敏性腸症候群の重症型と考えればよいでしょう。慢性に経過します。腹痛、下痢がひどく大腸から出血するので便は粘血便になり、貧血にもなります。

サラソピリンという薬が効く場合もありますが、重い人はステロイドホルモンを飲み続けなくてはならない場合もあります。免疫系の異常が考えられるので、血液中の白血球の中のリンパ球や顆粒球を取り除いたり、免疫抑制剤で効果のある人もいます。以前は大腸を全部切除したりもしましたが、現在は生物学的製剤(抗体医薬)が特効薬として使われています。

昔は非常に稀な病気と思われていたのですが、最近は多く見つかってきました。ストレスが誘因になるようですが、詳しいメカニズムはまだわかっていません。欧米に多い病気といわれていましたが、日本でもとても増えてきました。

③ 慢性すい炎

すい臓は消化酵素を作っている臓器です。慢性すい炎は長い間かけて、すい臓が炎症のために硬くなり消化液が出にくくなるので、食べた物の消化が悪くなり下痢をします。

この場合は、消化剤を通常の倍量、毎食後に服用すると楽になります。この病気は意外に多いのですが、医者もそう思って検査をしないと見落とすこともあって、下痢止めばかり常用してかえってお腹が張って苦しんでいる人もいます。

原因不明の場合もありますが、アルコールによることが多く、慢性すい炎の男性の70%はアルコールによるものといわれています。お酒は肝臓を壊すと条件反射のように考えられてきましたが、すい臓もかなり障がいされることがわかってきました。昔の大酒飲みはほとんどが男性だったので、慢性すい炎も男性が多かったのですが、最近は女性もお酒を飲む人が増えたので、将来、この割合は違ったものになってくるでしょう。

大腸には人体細胞の37兆をはるかに超える細菌がいる

昔、人間の体の中にはほとんど菌はいないと考えられていました。ところが無菌だと思われていた胃の中にピロリ菌がすみついていることがわかり、また毎日歯を磨いているのに口の中には500~700種もの細菌がいることがわかってきました。そして大腸にはなんと、人体の細胞の37兆より多い細菌がいることがわかったのです。100兆近い1000種類の腸内細菌が人の体の働きに深く関与していることがわかってきて、ある研究者は「人は腸内細菌に牛耳られているようだ」というくらいです。女子高で教え終わってから研究が進んできましたので追加で入れさせていただきます。

菅沼 安嬉子(すがぬま・あきこ)
内科医

1943年、東京生まれ。68年、慶應義塾大学医学部卒業、内科学教室入室。2020年3月、女性で初めて慶應連合三田会会長に就任。菅沼三田診療所副院長。慶應義塾評議員他、多数務める。1985~2000年までの15年間、医師として診療を行うかたわら、慶應義塾女子高等学校で保健授業の講師を務めた。