老いることは悪くない
【奥田】たしかに企業も、60代以降で再雇用した人に対しては、現役世代のときのような成果や結果を求めなくなりますよね。それはある意味、寂しいことかもしれないけど、考え方を変えれば、若い頃のように数字やノルマに追われない分、気楽に働けるはずです。
【中村】「一億総活躍社会」とかいうけど、社会はいつの時代も20代から50代の人が中心になって回しているもんやろ。だから60代からは、そのお手伝いをするって感じやな。老いぼれでも、ちょっとはお役に立てているうちは働かせてもらいましょって感じやね。
【奥田】家庭でも、職場でも、中心ではなくなって脇役になっていくけど、それは寂しいことじゃなくて、責任やプレッシャーから次々に解放されていくってことなんですよね! 年齢を重ねることで仕事に対するストレスも軽くなっていくなら、老いることはやっぱり悪くないですね。
気力・体力の右肩下がりも、悪くない
【中村】老人になると役割だけじゃなく、自分を縛ってきた「欲」からも、どんどん解放されるよ。面白いもので、ええ塩梅に気力や体力が落ちてくるから、あれしたい、これしたいって気持ちがだんだん少なくなっていくんやな。仕事でも私生活でも、脇役・黒子でけっこう、そっちの方が楽やし! ってな感じになってくる。
【奥田】たしかに50歳を過ぎたあたりから、物欲も穏やかに減ってきますし、仕事や趣味で自己実現しなきゃ、とか、人生を充実させなきゃ、といった感覚も、どんどん薄まっていきますね。
【中村】自己実現ねえ。私らの頃と違って、そういうことで悩んでる若い人が多いみたいやね。「仕事が自分に合ってない」「人生が充実していない」、そんな理由で、うつっぽくなって外来に来る人もいるわね。
【奥田】私も産業医として、そうした方々をたくさん診察しました。自分自身も20代から40代にかけては、自己実現感を常に追い求めていた気がしますね。