大阪市長 橋下徹(はしもと・とおる)
1969年、東京生まれ。94年早稲田大学政治経済学部卒業。同年司法試験合格。テレビのバラエティ番組出演で人気を博し、2008年大阪府知事就任。昨年10月に府知事を辞任し、12月に大阪市長就任。
昨年11月の大阪市長選で、既成政党がこぞって応援した候補に圧勝した。言わずもがなのテレビの申し子だ。弁護士として活動する傍ら、関西を中心にメディアに進出。2003年からNTV系の『行列のできる法律相談所』のレギュラーとしてお茶の間の人気を確立した。大阪府知事就任以降、大阪都構想などを打ち出し、10年には地域政党「大阪維新の会」を設立。徐々に地方議員を増やし大政党の支持基盤を侵食し始めている。
二項対立をつくり「敵」を徹底的に叩いてテレビを刺激し続ける。小泉政治以降、反省もされた劇場政治だが、いまだ威力は大きい。橋下は、このツボを見逃さない。支持率を背景にした強権、競争と自己責任を煽る市場原理主義、そして巧みなレトリック、その原理は小泉政治と非常に近い。実際に、大阪の公務員を「敵」として攻撃し、テレビの前で日教組教員とやりあい、「独裁が必要」とまで豪語し、従わない職員には退職を迫る。
一部の知識人は、橋下政治の原理を、「ファシズム」にひっかけて「ハシズム」と揶揄するが、橋下は、そんな批判にも牙をむく。「現実を知らない。自分でやってみろ」と痛いところを突く。
「上意下達の強権でなければ改革はできない」と強気だ。極論にも聞こえるが、民主的な議論、手続きを逆手にとって時間を稼ぎ、何も決めず既得権益に固執する政治家、官僚への人々の苛立ちが、橋下政治を支えている。
大阪市長当選直後の会見では国政選挙で候補者を擁立する可能性を明言した。既成政党への支持が低迷する中、次の総選挙で台風の目になることは間違いない。そして、小泉純一郎から橋下に至る強権政治は、戦後民主主義のあり方を議論するための瀬戸際のチャンスを与えてくれている。
(文中敬称略)