手数料を払って外貨を買う必要もない
具体例として、住信SBIが日本航空と運営する“JAL NEOBANK”を取り上げよう。JALは、銀行代理業のライセンスを取得したうえで住信SBIがプラットフォーム上で提供する銀行機能を利用する。その一つに、日本円や米ドルなど15の通貨を対象とする“JAL Global WALLET”への無料チャージサービスがある。アプリを使うことによって、利用者はいつでも、どこでもチャージが可能だ。その上で、決済通貨を選択して代金を支払う。
従来と異なり、自分の銀行口座から円の預金をおろし、両替所で手数料を支払って外貨を購入する必要はない。ためたマイルをポイントに交換し支払いに使うこともできる。
BaaSの利用によって物理的にも心理的にも銀行のサービスがシームレス、かつ身近になる。それによってJALはエアライン利用客の満足度を高めることができる。プラットフォーマーである住信SBIはオープンAPIを経由して利用者のデータを獲得し分析することによって、人気の高いサービスの強化などに効率的に取り組むことができる。理論的に、BaaSはプラットフォーマー、提携先の企業、最終顧客のウィン・ウィン・ウィンの関係を実現する力を持つ。
支店、ATM、手数料…銀行の役目が消えていく
BaaSは、銀行の姿を変える。最大の違いが、目に見えるか、見えないかだ。これまでわが国の銀行は目に見える存在だった。各行の行員は社章バッジを胸につけ、サービスはそのブランド名で提供されている。大手行をはじめ多くの銀行が支店を設け、行員は近隣地域を自転車で駆け回り個人などから預金を集める。調達した資金を銀行は資金が不足する企業などに融資し、利息収入を得る。そのために銀行は企業の信用力などを評価する専門の人材を育成してきた。
また、銀行は振替決済や海外送金のサービスを提供することによって手数料を得る。事業規模を拡大するために各行は店舗、現金保管のための金庫や輸送網、ATMの設置台数を増やしてきた。口座の資金残高や事務処理などを行うための巨大なITサーバーの構築も進んだ。銀行が安定して事業を運営する体制を維持することは、社会心理に大きく影響する。そのため、銀行は規制で保護されてきた。そうした要素は銀行業界への新規参入を阻む障壁だった。