コロナ禍で社会が変わり、柔軟さが生まれた

富士通がテレワークを導入したのは、コロナ禍になってからではない。もともと、全社的な働き方改革の一環として、また、東京2020オリンピック開催時の人流抑制対策もあり、すでに取り組み始めていた。人事部門でテレワーク導入に携わってきたエンプロイーサクセス本部エンプロイーリレイション統括部の荻荘由香さんに初期の様子を聞くと、当初はあまり乗り気ではなかったという。

Employee Success本部 Employee Relation統括部 荻荘由香さん「コアタイムがなく、仕事の中断・再開ができるので家事と併用もOK。社員全員の意識が変わりました」
Employee Success本部 Employee Relation統括部 荻荘由香さん「コアタイムがなく、仕事の中断・再開ができるので家事と併用もOK。社員全員の意識が変わりました」

「テレワークを導入し始めた当初、利用者は介護や育児中の“利用する事情を抱える人”ばかり。利用条件があるし、申請に手間が掛かるので、そんな面倒なことをするくらいなら出社したほうが早いくらい。社員の共通認識として『仕事は出社しないとできない』と思っていましたしね。

だから、皆の意識を変えるために、まず私たち人事担当部門の人間が率先してテレワークを利用するようにしたんです。でも、当時はオリンピック開催時までに出社率を5〜6割に抑えられればいいくらいにしか考えていませんでしたけれど」

同部署に所属する松永明日香さんは、システムや制度が整ったことにより、社内風土や意識に変化が起きたことが何よりもの成果だと語る。

Employee Success本部 Employee Relation統括部 松永明日香さん「異動して、『はじめまして』がオンライン。周囲に助けてもらいながら進められました。出社すると皆と会話が弾みます」
Employee Success本部 Employee Relation統括部 松永明日香さん「異動して、『はじめまして』がオンライン。周囲に助けてもらいながら進められました。出社すると皆と会話が弾みます」

「業務によってはパソコンひとつで仕事ができるとはいえ、以前はパソコン自体にデータを保存していたため、万が一、紛失でもしたら懲戒解雇ものでした。そんなリスクを背負ってまでテレワークを行いたくはありません。そうした声を吸い上げ、コロナ禍以前から、仮想デスクトップや、データが残らないセキュアなパソコンの導入など、安心してテレワークを行える環境構築を進めていたところにコロナ禍が起きた。開発が急ピッチで進み、すぐにシステムを稼働することができました。

また、顧客先常駐で働く社員は、常駐先のお客様の動きに合わせて仕事をしなければならないので、テレワークは無理だといわれていたんです。でも、コロナ感染拡大をきっかけに社会が一変。お客様の価値観も大きく変わったので、当社の働き方を柔軟に受け入れてもらうことができました。今まで無理だと思ってきたことが、本当は無理じゃなかったんだと気付かされましたね」

トップが本気度を示せば、企業風土は変えられる

これらの大胆な改革を実行できたのには、代表取締役社長・時田隆仁氏(19年社長就任)の存在が大きい。IT企業からDX企業への転身を掲げ、新しい働き方をはじめ、組織・人材マネジメントの変革を推進。20年には幹部社員の報酬体系を職能ベースではなく、職責ベースとするジョブ型人事制度を導入。今後、一般社員へ適用を広げ、従業員のキャリアパスを拡大し、企業成長の原動力にするという。

時田社長の改革を支える前出の執行役員常務・平松さんは、「僕自身、完全テレワーク化という前例のない変革を進めるにあたり、急激な変化を起こすことに迷いもあったのですが、時田がひと言、『ひよるな』と。『理想のためなら、背中を押す』と言ってくれたのです。