「なんとしても、生きているうちに最高の自分にめぐり会いたい」
そして、探究心同様、大谷選手を本気にさせているもうひとつの内発的モチベーターは、「自己実現の欲求」です。これも探究心同様、自分の底から湧き上がってくる典型的な内発的モチベーターです。
もう半世紀以上前にアブラハム・H・マズローがうち立てた「5段階欲求説」は、いまもなお健在です。彼は人間の持つ5つの欲求をピラミッドに見立て、階層状に表しました(図表)。
下位のほうから「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」「承認欲求」というふうに積み上がっていきます。彼は「下位の欲求が満たされれば、それは自然に消え去り、すぐ上の欲求に移行する」と主張しました。
ピラミッドのうち、下位の4つは「満たされれば自然に消え去る」欠乏欲求です。ただし、一番上の「自己実現の欲求」だけは唯一の存在欲求です。
「なんとしても、生きているうちに最高の自分にめぐり合いたい」という究極の自己実現の欲求こそ、大谷選手にとって、とても魅力的、永続的、かつ安定的なモチベーションになっているはずです。あなたもぜひ、人生における「自分にとっての自己実現とは何か?」について、自問自答してください。
大谷のやる気を引き起こしたのは「金銭報酬」ではない
内発的モチベーションの対極にあるのが、「外発的モチベーション」です。つまり、ご褒美を与えられることにより、私たちは素直にやる気を発揮できるのです。
外発的モチベーションには、3つの強力なモチベーター(モチベーションを左右する要素)が存在します。
最初の強力な外発的モチベーターは「金銭報酬」です。しかし、大谷翔平選手が、この強力なモチベーターについて触れている言葉はあまり見当たりません。
大谷選手は2021年シーズンの開幕前に、ロサンゼルス・エンゼルスと2年総額850万ドル(約9億3500万円)で契約延長に合意しました。この契約は2022年シーズン終了まで有効で、今季の年俸は300万ドル(約3億3000万円)、2022年の年俸は550万ドル(約6億500万円)です。
しかし、2021年シーズンの活躍を考えると、エンゼルスが大谷選手と長期契約を結びたいならば、いますぐにでも契約を結び直すことが賢明であり、ある専門家は「年俸5000万ドル(約55億円)の5年契約、総額2億5000万ドル(約275億円)が妥当である」と予測しています。
ただし、莫大な報酬を獲得しても、大谷選手にとって「金銭報酬」は、最大のモチベーターになることはありません。