数字や事実も示して経営陣を説得
【木下】ダイバーシティ実現のためにはトップの強い意思が大切だと思いますが、経営層を説得するのはなかなか難しいと聞きます。女性活躍推進の担当者はどう行動すればよいのか、人事の立場からアドバイスをお願いいたします。
【佐藤】当社でもトップメッセージは大事だと考えており、社員に向けて定期的な発信を行っています。また、人事担当者と役員とのコミュニケーションも大切ですから、役員会では、人事部内の「人材委員会」と役員が女性活躍やダイバーシティについて対話する時間を設けてもらっています。大事なのは、社の戦力のど真ん中に、いかに人事戦略を置いてもらうかということ。そのためには、経営層のアンコンシャスバイアス解消に取り組むと同時に、女性に限らず各社員の活躍や能力、成果などをデータでもって「見える化」して伝えること、他社の動向も見ながら進言することが効果的だと感じています。
【木下】女性活躍推進への思いだけでなく、数字や事実で説得していくことも大事なのですね。しかし、企業からは「当の女性たちが管理職になりたがらない」という悩みもよく聞きます。
【及川】なりたがらない理由は何か、まずそこをしっかり見ていくべきだと思います。当社は2025年の目標として女性管理職比率50%を掲げていますが、ここ数年はずっと30%前後と伸び悩んできました。そこで、女性が管理職になりたがらない環境を変えなければと思い、現在は労働環境や評価のあり方、評価を担当する管理職側の意識改革などに取り組んでいます。
人の可能性を伸ばすには、本人の努力だけでは解決しません。会社側もどう変わるかが重要。女性が管理職になりたがらないのなら、本人の意欲を疑う前に、まず自社の制度やサポート体制、ダイバーシティ・マネジメントのありかたを疑うことも必要だと思います。
【木下】なるほど、本人たちの意識の面ばかり指摘していたら、逆に意欲をそいでしまうことになり兼ねませんね。
【及川】当社の具体的な取り組みとしては、トップによる取り組みの意義の発信、女性のライフスタイルの課題を解消する仕組みの整備、男性上司が女性部下を評価する際のバランスルール策定、女性の自認サポートなどが挙げられます。特に女性の自認に関しては、外部評価を導入して、自分の実力を客観的に理解してもらえるよう努めています。
女性は昇進を打診されても「私なんて」と謙遜する人が多いのですが、外部評価で「他社ではあなたと同じキャリアの人はこのポジションにいるよ」と示すようにすれば、謙遜の美徳が入る余地はありません(笑)。段階ごとにこうした評価をしながら昇格試験に向けて育成しているほか、試験の前にリーダーに抜擢する「抜擢人事」も行っています。