緊急事態宣言を出しても感染拡大が止まらない

後手後手に回っている政府の新型コロナ対策が、日本経済を深刻な危機の淵に追い込もうとしている。

記者会見する菅義偉首相=2021年8月17日、首相官邸[代表撮影]
写真=時事通信フォト
記者会見する菅義偉首相=2021年8月17日、首相官邸[代表撮影]

東京に出ていた3回目の緊急事態宣言を6月20日に解除したのが、あたかも号砲だったかのように、インド由来の変異型「デルタ株」が猛威を振るい感染者の急増が始まった。早くも7月12日に4回目の緊急事態宣言発出となったが、時すでに遅し。爆発的な感染拡大が止まらない事態になった。8月20日からは、緊急事態宣言をそれまでの6都府県から13都府県に拡大。まん延防止等重点措置も16道県に広げたが、それでも感染拡大は止まっていない。

緊急事態宣言中にもかかわらず、感染拡大が広がっているのは、もはや政府の言うことに従わない国民が増えているため。酒類の提供停止を求められているにもかかわらず、東京の繁華街では酒を提供する店が増加、若者の間に感染が広がった。新型コロナに感染しても若年層の場合、重症化せず、死亡する例がほとんどなかったことも「自粛無視」につながった。そのうえ、国や都道府県が出す休業補償だけでは店舗の維持が難しいことから、「もう経済的にもたない」という声が強まった。

ワクチン接種完了前に感染爆発が起きた

人々が納得する明確な証拠(エビデンス)がないまま「酒」を目の敵にしてきた政府の姿勢も裏目に出た。デルタ株のまん延以降は、酒を提供する飲食店だけでなく、百貨店の売り場など大型商業施設や学校などでクラスターの発生が相次いだ。酒を伴う飲食が感染源になるとしても、混雑した通勤電車の利用や、オフィスでの勤務、通常の買い物は感染しないのか、疑問を持つ人が多かった中で、政府が百貨店の地下食品売り場「デパ地下」の感染対策強化を打ち出したことで、これまで政府が言ってきた対策の不備が誰の目にも明らかになった。

「この危機を乗り越えるという強い決意の下で、医療体制の構築、感染防止、ワクチン接種という3つの柱からなる対策を確実に進めてまいります」――。

8月20日からの宣言拡大を決めた8月17日。記者会見に臨んだ菅義偉首相の言葉は、いつも以上に空疎だった。ワクチン接種の広がりが事態を打開する「ゲームチェンジャーになる」と言い続けてきたが、そのワクチン接種が完了しない段階で感染爆発が起きた。ワクチン接種が行き届かない比較的若い世代で感染が拡大。当初の予想に反して重症化するケースも増えたことから、医療体制のひっ迫が現実のものになった。これまでの感染防止対策が不十分だったことから感染爆発を止められず、結果的に医療体制が崩壊の危機に直面している。

1回目の緊急事態宣言から1年半近くが経っているにもかかわらず、欧米並みの感染爆発が起きるという「最悪の想定」をせず、医療体制の抜本的な再構築も行わなかった。政府の対策が「後手後手だ」と批判されても仕方がないだろう。