みんなが結婚する社会では「未婚ペナルティ」が発生
「みんなが結婚する社会」の場合、結婚は幸福度にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
もし自分が周りと同じように結婚できた場合、おそらく「うまくいった」と安堵するでしょう。これは幸福度にもプラスに作用するはずです。
反対に、もし自分だけが周囲と違って結婚できず、相手を探す日々が続いた場合、心中穏やかではないはずです。これは幸福度にマイナスに作用するでしょう。
このように皆婚社会では、結婚が幸福度をより上昇させ、未婚が幸福度をより低下させると予想されます。
ここでの重要なポイントは、皆婚社会だと未婚状態がよりつらくなる「未婚ペナルティ」が発生していた可能性がある点です。社会における「当たり前の状態からの逸脱」が、幸福度を押し下げると考えられるわけです。
このように皆婚社会とは、その構造上、「未婚者と既婚者の幸福度の差を際立たせる社会」であったと考えられます。おそらく、未婚者と既婚者の幸福度の差は、現代社会よりも大きかったのではないでしょうか。
さて、以上の内容はあくまで私の予想・仮説であり、実際のデータで実証されているわけではありません。
「なんだ、お前の当て推量かよ」と思われた方もいるかと思いますが、ちょっと待ってください。実はかなり近い内容をしっかりデータで実証した研究がアメリカにあります。
有配偶率が高い地域と、低い地域で比較
コロラド大学のティム・ワズワース准教授はアメリカにおける結婚と幸福度(実際の分析では生活満足度という幸福度に類似した指標を使っています)の関係を分析しているのですが、彼が注目しているのは、住んでいる地域ごとの有配偶率が結婚の幸福度への影響に変化をもたらすかどうかという点です(※2)。
つまり、住んでいる地域が結婚している人ばかりである場合と、結婚している人が少ない場合で、結婚による幸福度への影響が違ってくるのではないかという点を検証しています。
アメリカは日本よりも国土が広く、人種も多様であるため、結婚に対する考え方もさまざまです。これが地域ごとの有配偶率の差を生みます。その差を利用して、有配偶率が高い地域に住んでいる人ほど、結婚によってより幸せになっているかを検証しています。
さて、実際に分析を見ると、興味深い3つの結果が明らかになっています。
※2: Wadsworth, T.(2016). Marriage and Subjective Well-Being: How and Why Context Matters. Soc Indic Res 126, 1025–1048