2011年に社会問題となった「おせち事件」。その翌年、おせちのインターネット販売が実は大成功を収めていたことをご存じでしょうか? 元ぐるなび広報の栗田朋一さんは、「マイナスをプラスに変えるストーリーがあれば戦える」と言います――。

※本稿は、栗田朋一『新しい広報の教科書』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。

おせち
写真=iStock.com/electravk
※写真はイメージです

信頼が地に落ちるほどの出来事

2011年のお正月、ネット通販の根幹を揺るがしかねない騒動が起きました。

それは「スカスカおせち事件」と呼ばれ、大きな社会問題になりました。横浜市にある飲食店が、クーポン共同購入サイトを通して、おせち料理の宅配セットを販売しました。その中身が、広告の写真とはまったく違うひどいもので、多数の苦情が寄せられる事態になったのです。

料理は箱の容積に比べて内容量が極端に少なく、写真では傷んでいるようなものまで見受けられました。この画像はネットで拡散され、「生ゴミ」「残飯」という非難を浴び、ついには消費者庁が事情聴取を行う事態にまで発展したのです。

商品を画像で選ぶネット通販にとっては、「信頼」が命です。その信頼を地まで落とすほどの出来事ですから、同じインターネットの仕事に携わる者として、これほど腹立たしい事件はありませんでした。

あえて事件に触れる広報戦略

おせち料理は、「ぐるなび食市場」の中でも、年間を通じて一番売り上げの大きな商品です。その稼ぎ頭が、この不祥事により、次の年から大打撃を受ける可能性が出てきたのです。

このとき大手の通販サイトでは、積極的なPRを自粛し、その事件には触れないよう努めていたようです。しかし、私はそういうときだからこそ、リスクを背負って積極的に打ち出していくべきであり、そのことが信頼回復につながるはずだと判断しました。

このときのPRストーリーで、私はあえて「昨年はおせち問題が世間を騒がせました」という、マイナス要素から入ったのです。