コロナ禍、本当の意味でイノベーションが進む

コロナは歴史の歯車を大きく回すきっかけになったと見ています。一般に、イノベーションは世の中を前進させますが、技術、需要、資本の3つがそろわなければ、社会は変わりません。

保護フェイスマスクと株価チャート
写真=iStock.com/DNY59
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このコロナ禍で、まずデジタル化が促進。これまでも技術革新は進んでいましたが、生活やビジネスでのITの実用化は本格的ではありませんでした。ハンコをなくそうという機運が高まったことがよい例ですね。

次に巨大な市場も生まれました。テレワークの推進で、クラウドやウェブ会議ツール、セキュリティー機器などのニーズが生まれ、巣ごもり需要が拡大。情報伝達のコミュニケーションがかつてないほどに高まりました。規制の強かった教育や医療の分野にもオンライン化の波が押し寄せたのは印象的でした。

3つめの資本についても、経済的打撃を回避するため世界中で中央銀行が金利を低くし、量的緩和といって、国主導でお金を世の中に回して経済を活性化しようとしています。

日本はコロナ禍以前からデフレのため、このような金融緩和と呼ばれる政策を実施していました。人々は将来への不安から、預金してお金を使わず、モノが売れず、モノの価格が上がらず、賃金も低いままという悪循環が続いていたのです。そのような中でも、政府がお金を世の中に回し続けると、お金の価値が低くなり、国家財政が破綻するからよくないという理由で金融緩和政策を批判する人もいます。

今や欧米を含めた世界中で、日本と同じような金融緩和政策を行っていますが今のところインフレにもなっていませんし、国の財政も破綻していません。今回のコロナ禍で、イノベーションを進めるのに必要な技術、需要、資本がそろったのです。

ワクチン接種などで、コロナもいずれは収束します。この間の禁欲生活で需要も欲望もお金もたまっています。コロナに後押しされ、旧弊なビジネスや社会にもIT化が普及し、市場は効率化され、生産性がより高まってくるでしょう。新しいビジネスモデルやライフスタイル、価値観が生まれ、社会は大きく変化するはずです。経済が回りはじめ、IT化で生活コストも下がります。余剰の所得が生まれ、緊急事態宣言が解除されて禁欲生活から解放されれば、たまっていたお金は再び外食や旅行業界にも回るでしょう。

いずれにせよ、コロナ後は産業・経済構造が変わり、人々の価値観や生活スタイルもが変化することで、新しい時代がはじまるのです。

▼コロナ禍で株価が上がる4つの理由
①ワクチンへの期待感
②デジタル化(DX)の加速でITが好況けん引
③減産していた製造業が回復
④カネ余りで投資先がなく株が買われる

構成=奥田由意

武者 陵司(むしゃ・りょうじ)
武者リサーチ代表、ドイツ証券アドバイザー、ドイツ銀行東京支店アドバイザー

1949年、長野県生まれ。73年、横浜国立大学経済学部卒業後、大和証券の企業調査アナリスト、大和総研企業調査第二部長、ドイツ証券調査部長兼チーフストラテジスト、同社副会長などを歴任。2009年、武者リサーチ設立。