インバウンドが増えていたのは、日本の物価が安いから

——この数年、「日本食がおいしい」とか「日本の伝統文化がスゴい」というテレビ番組が人気ですが、経済が後退した反動なのかもしれませんね。

相場 英雄氏
相場 英雄氏(撮影=黒石あみ)

コロナ以前は、インバウンドが増えていました。もちろん日本への憧れをもって来日する人もいたとは思います。しかし、もっと違う理由があるのではないかという気がしていました。

一昨年まで高校時代から北米に留学した息子の友だちが、よく日本に遊びにきていました。当初、気を遣って「狭いけど、うちに泊まるか?」と聞いていた。でも「大丈夫。日本は物価が安いから。インペリアルのスイートに泊まれる」と言うんです。確かに、帝国ホテルの値段では、アメリカの中堅ホテルにも泊まれない。日本の物価が安いからインバウンドが増えた。そう考えると日本をめぐる現状が腑に落ちてきます。

雇用状況を見てもそうでしょう。物価が下がり続けるから、もっと安い労働力が必要になる。そこで、格差が激しく、いまも貧しい生活を強いられているベトナムやミャンマーなどの農村から来日する技能実習生という名の労働者に頼るしかなくなった。

「派遣切りのときよりもずっと残酷」

——2019年4月から改正入管法が施行され、受け入れがさらに拡大されました。

2010年以降、団塊世代が大量に離職し、日本の労働人口が一気に減りました。とくに低賃金で、仕事がきついというイメージがついた職種は人手不足に悩まされています。それにデフレのなか、下請け、孫請けの企業は、日本人の派遣労働者を使っていては高コストで収益をあげられない。だからより賃金が安い技能実習生が必要とされている。そこまで日本は追い詰められているんです。

——登場人物のひとりが「万が一、リーマン・ショックのような事態に直面した際、大量に受け入れた海外の人材をいきなり切り捨て、母国に帰れ、と命じるのですか。派遣切りのときよりもずっと残酷で、外交問題になりますよ」と発言しています。コロナ禍のなか、技能実習生はリーマン・ショック時以上の苦境にあります。

アンダークラス』の連載は、2018年から19年でした。当時はまさか、新型コロナウイルスが流行するなんて、思いもしていなかった。