若手が大量離職する風土

そんな熱い言葉を語ってくれた彼らと、丸紅本体のオフィスの一隅でほんの短時間写真撮影をしていたら、部下を引き連れたどこかの部の偉い人に叱られた。「組合が、こんなところで何やってるんだ!」。「働き方改革の広報活動です」と執行部の彼らが説明をしても「邪魔だろう! さっさと引き上げろ!」とまた叱られた。広いオフィスで、誰もがそれを黙って横目で見て立ち去っていった。女性は受付の数人しか見当たらなかった。名の知れた企業に所属するでもないフリーライターとやらの怪しげな身分で、スーツ姿でもなければ「さして重要でもない」女である私の心には、なるほど、若手が大量離職する風土とはこれか、と強烈なインパクトでその風景が刻み付けられた。2017年のことだ。

さて新卒総合職の女性割合を半数近くへと発表した2021年の丸紅は、柿木真澄社長が年頭の挨拶でこうアナウンスした。「人財の多様化にも一歩進んで取組みます。社会と向き合い、環境変化に柔軟に対応していくには、同質的な集団からの脱却が必要不可欠です。とりわけ不足している女性の比率向上に対して積極的に取り組みます。新卒採用では、女性総合職比率を現状の20~30%を、3年以内に40~50%程度とすることを目指します。採用だけでなく、多様な人財が実力本位で登用され、活躍できる組織づくりにも一層注力していきます」

丸紅人事部もこのように考えているという。「いまの比率で採用を続けると、20年後も男性がほぼ8割で、現状とほぼ同じ状態と試算しました。(経営目標の一つとして)社会課題を先取りして解決することを掲げていながら、男性8割の会社が十分に応えていけるのかという問題意識がある」

若手の手で組織が書き換えられていく

「環境変化に柔軟に対応するには、同質的な集団からの脱却が必要不可欠だ」とは、先出の柿木・丸紅社長が語った言葉である。

あの時の真摯な彼らの努力や働きかけが、少しずつ丸紅本体を説得し、意識を変えていって、今回「新卒総合職採用の半数近くを女性に」との大きな社会的インパクトを生む発表にこぎ着け、本当に「ゼロを1に」したのだろう、私はそう受け止めている。組織は、新陳代謝する。あのインタビューで「(あなたも)組織は死なない、と信じてほしい」と、他社の働き方改革担当者たちへ向けて語った若手社員の真剣な眼差しを、私は今も鮮烈に覚えている。

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