どうすれば人生は豊かになるのか。独立研究者の山口周さんは「日本人は成功者のイメージが貧しい。たとえば『高収入でタワマン暮らし』を成功と考えてしまうと、豊かな人生からどんどん離れてしまう」という――。

※本稿は、山口周『ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

高層ビル
写真=iStock.com/Juergen Sack
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「仕事に対して前向き」な日本人はわずか6%

私たちの社会はすでに普遍的な物質的課題の解消というゲームをクリアしています。すでに終了してしまったゲームに関わっても充実感を得ることができないのは当然のことですが、なぜか、この終了してしまったゲームに「つまらない、くだらない」とぼやきながら関わり続ける人が非常に多いということが、各種の統計からわかっています。

たとえば、これは前著『ニュータイプの時代』でも紹介したデータですが、社員意識調査のアメリカの最大手であるギャラップ社によると「仕事に対して前向きに取り組んでいる」と答える従業員は、全世界平均で15%となっています。

この数値からしてすでに驚くべきスコアですが、さらにヒドイことになっているのが日本で、そのスコアはなんと6%となっています。このような調査を行うと全般的に日本のスコアが低めに出ることはよく知られていますが、流石にこの数値を見れば「確実に何かが狂っている」ということは認めざるを得ないでしょう。

チクセントミハイがインタビューした創造的な人々であれば「素早く荷物をまとめてその場を立ち去ってしまう」ような営みに、9割以上の人が、かけがえのない人生を浪費している状況なのです。これは実に悲しむべき状況で、それこそ「社会的課題」だといえます。

「この瞬間の幸福」への感受性が鈍っている

私たちの高原社会における労働を、かつてのインストルメンタルなものからコンサマトリーなものへと転換することを考えた時、カギとなるのは「幸福感受性」です。というのも、私たちはあまりにも長いこと「辛く苦しいことをガマンすれば、その先に良いことがあるよ」と学校や職場で洗脳されてきてしまったために、「いま、この瞬間の幸福」に関する感受性を著しく磨滅させてしまっているからです。

なぜなら、そのような「感受性の鋭さ」は、すぐに「つまらないこの状況からすぐに逃れたい」という衝動を引き起こしますが、そのような衝動の末に起こした行動は、往々にして厳しいペナルティによって戒められることになるからです。

結果として、この「幸福感受性」のアンテナを通電させる回路をカットし、規範に従順なロボットになることで利得が最大化されることを学習するわけですが、この感受性を回復できなければ、コンサマトリーな状態の回復など望むべくもありません。