治療が難しい高齢男性
高齢の男性患者さんの治療は難しいです。便秘外来で500人以上の患者さんを診察してきた中ではっきり出ている結論です。一般的に「便秘は女性に多い悩み」というイメージが浸透しているので、不思議に聞こえるかもしれませんが、治療がうまくいかないケースは男性の方が多いです。
どれだけ苦しいのかは本人にしか分からないのですが、便が少量しか出ないことに対する不安や「もぞもぞする違和感」が消えないことのつらさ、残便感や腹痛で生きているのが嫌になるほどつらいと言われます。
このような患者さんを診察する時に重視するのは、「まずは話を聞く」ということです。一方的に、「そんな違和感、気にしなければ大丈夫ですよ」と言うだけでは、本人のつらさは何も解決しないからです。加えて、医療への信頼も無くして失望し、余計に症状が悪化してしまうかもしれません。
実際に、「見捨てないでください」や「話を聞いてもらうだけで良いから」などという言葉を、治療が上手くいっていない方からいただくことがあります。今までに診察を受けた時に「大した問題ではない」などと言われて親身に話を聞いてもらえなかった、「もう治らない」などと突き放されて絶望的な気持ちになったなどの経験を持つ方が多くいます。
ですから、どんな症状で苦しんでいるのか、どのような工夫をしてきたのか、その成果はどうだったかなど、患者さんから話を聞き、理解しようとすることだけで喜ばれることがあります。
話をじっくり聞くことで少しは安心されるのかもしれません。少なくとも、口に出して言える場があることは、患者さんの心にとって大切なことです。患者さんご自身の便秘に対する心理的苦痛を取り除くこと、これも便秘外来の大切な役目だと思っています。
男性に多い「残便感」
便の回数が少ないことを「便秘」と思いがちですが、便秘外来を受診する人は「便が肛門の近くで残っている、排便後もすっきりしない、もぞもぞして気持ちが悪い」などといった感覚の異常である「残便感」をなんとかしたいという人がとても多いです。残便感の治療は特に難しく、男性に多いです。
「すっきり出す」ことを望まれるので、様々な薬を使って快便になってもらおうと試みます。ある程度便は出るのですが、やはりすっきり出ない、すごくいきまないと出ないという人が多いのです。
薬を処方するだけでなく、食事や運動、排便姿勢の指導などもします。薬が体に合って、残便感がすっきり解消される人もいますが、治療がうまくいかず、なかなか解消されない患者さんもいます。
残便感を訴える人は男性に多いのですが、男性は若い頃は苦労せずに便が出ていた方が多いので、現状の自分と過去の自分を比較し、落差を激しく感じて余計に訴えが強くなってしまうことも、治療が難しい原因の一つだと思います。