「ムンジョンさん、僕らまずここから考えてみません?」
「なんです?」
「スマホ以上におもしろいものがほかにあるのか」
「……あのう、私、毎日8時間くらいスマホいじってるんですけど……」
「……」
1号にとってスマホよりも厄介で魅力的なのは
スマホでできないことなどない世の中だ。テレビだって見られれば音楽も聴けるし、本だって読める。おまけに友だちまで作れるときた。そんなわけで僕らは1日平均2時間強の時間を、この四角いプラスティックにくぎづけになっている。これが悪いとは言わないまでも、体によくないものの方がより楽しく感じられるというのは否定できない事実である。もはやスマホはビョーキだ。それもやたらに口当たりのよいビョーキ。
ところで少し前から、僕にとってスマホよりもっと厄介なやつが現れた。約9千年の昔から人類のために君臨してきたという生命体。猫である。こいつは性格からして有害である。呼んだところでガン無視されるだけだし、触ろうとするとやわらかな体をひねらせ、するりとかわす。かと思えば、こちらがテレビに集中していたりするといつの間にかそばにやってきて、ゴロゴロソングを歌い出す。ヒヤヒヤさせるぜ。
けれどこの生命体が僕にとってヤバい本当の理由はほかにあった。僕はひどい猫アレルギーなのだった。正しくは猫の唾液アレルギー。重症だ。
実際に触れて、声を出して笑いたい
どんな猫とだって1時間もいれば、僕のまぶたは水餃子みたいに腫れ上がる。6歳の時にお別れしたひどい鼻炎と再会したのも、まあ、当然っちゃあ当然だろう。初めて猫を触った日、僕の全身は真っ赤に腫れ上がり救急治療室に運ばれる一歩手前までいった。だからスマホごときは致命的な存在とは言えない。到底比較にならないのだ。制限時間以内で最大限、猫ちゃんをなでまくり、魅力的なヒップをポンポンしなければならない。1分1秒がゴールデンタイムだからスマホにかまけている余裕なんかないのだ。
スマホの中にはすべてがある。本も音楽も映画もある。だけど猫はいない。こんな冗談みたいなこの状況、僕は気に入っている。スマホを上回るレベルで致命的で厄介なものができたからってわけじゃない。ただ、「何が好き?」という質問が一番嫌いだった僕に、30分以上かけて説明できる好きなものが生じたからだ。
「スマホ以上におもしろいものってある?」。これほどに難しいテーマはないということを知っている。しかし、それでも答えたかった理由は、スマホを開けば目に飛び込んでくるSNSの「www(大草原)」ではなくて、実際に声を出して笑いたいと望んでいたからではないだろうか。