前日に食べたものが思い出せないほど壮絶な子育て

そんなとき、海外にはAIで契約書をチェックするリーガルテック企業があるということを知る。

「同じようなものを日本でも作れないだろうか」

藤田さんが起業しようと思い立ったのはそれがきっかけだった。

とはいえ、そのころには長女の次に次女、そして双子が生まれ、子ども4人を抱えるヘビーな子育て生活を送っていた。双子の子育ては壮絶で、「真剣に考えても前日に何を食べたか思い出せない」(藤田さん)ほど。産後1年は最長でも1.5時間しか連続して眠れない状況が続いた。産後3、4カ月で職場に復帰したときは、座って昼ご飯を食べられることに感動した。早期の復帰がかなったのは、会社が子育てに対して理解があったからだ。

そうした背景もあり、起業したいと伝えると「もったいない。なぜ辞めるの?」と再考を促す友人も大勢いた。

テックも起業も、まるで初心者だった

さらに、テックに強いわけではないし、起業についても知識がまるでない。そんなとき、ベンチャーを立ち上げた経験があり、ベンチャー投資を行っている友人に、起業に関する留意点を聞こうと思い、相談に行った。そこで藤田さんは滔々とうとうと事業のビジョンと理念を話したところ、3週間後に彼から、「リーガルテックは今から盛り上がるし、面白い分野だと思う。社会的にも意義がある。一緒にやろう」と連絡が入った。そのうえ、技術に詳しい人も連れてきてくれて、一気に起業への道が見えてきた。2018年に会社を設立し、契約書レビューAIクラウド「り~が~るチェック」のサービス提供を開始した。

もちろん起業の決断までには、家庭への影響が脳裏をよぎることは何度もあった。当時長女が高校生、次女が小学生、一番下には双子がいて、まだ1歳だった。

上の二人に「起業をするよ」と言うと、小学生だった次女は「これからは家にいるんだね」と言って喜んだ。これからも忙しい日々が続くのに変わりはなかったが、娘がそんな思いを持っていたことに、このとき初めて気づいたのだった。

でも、こういうことは思い立ったときにやらないといけない。どうしてもやりたい、という気持ちが勝った。

また、両親のサポートは年齢的に難しくなっていたが、一方で夫のほうは役職が上がり、時間に余裕ができるようになったことから、家事の半分を担ってはくれていたことも大きかった。子どもとのコミュニケーションを大事にするため、掃除・洗濯・食事作りなどの家事はアウトソーシングを大いに利用し、外部にも十分頼ったバックアップ体制を整え、苦しい時期も乗り越えた。