結果を出し続けなくてはいけないプレッシャー
弁護士の仕事は、男女の区別がなく平等である。
業務量だけでなく精神的にもタフな仕事だが、逆にいえば、結果を出していれば自分の裁量が効く。書類仕事など持ち帰ってできることも多いし、スケジュールも自分の都合で決めやすい。一方で、「結果を出し続けなくてはいけないというプレッシャーは常にありました」と藤田さんは言う。
06年には、事務所の制度を使い、娘を連れてニューヨークに留学した。ここで、米国の裁判のデジタル化を目の当たりすることになる。
日本の法的な書類は、今でもすべて紙がベースだ。日本の法律事務所には、事務所内に図書室があり、そこから資料を引っ張り出して回覧する。訴訟でも、紙のファイルを持ち込んで裁判所とやりとりするのが常だ。
ところが、ニューヨークの法律事務所で過去の案件を調べた際、藤田さんは驚愕した。すべての資料はデータで格納されていて、検索窓に打ち込めば情報が引き出せる。そのため、iPadがあればすべての仕事が完結する。
そのうえ、デジタル文書には引用箇所にリンクが張られていて、クリック一つで引用箇所のサイトに飛べる。電子文書にリンクが張られているなど当たり前のようだが、今でも日本の司法ではそんな書類は実現できていない。10年前の米国ではすでに常識になっていたものが、だ。
こうした法律に関わるテック技術を「リーガルテック」と呼ぶ。藤田さんは、日本もいずれそんな時代が来るだろうと予感した。しかしその後、まさか自分がそうしたリーガルテックのサービスを生み出すことになろうとは思ってもみなかった。
企業の紛争を担当した際の忘れられない案件
2013年、藤田さんは紛争担当のパートナーになった。この時の経験が、その後の起業のきっかけとなる。
紛争担当になり、企業の契約書を見ることが多くなった藤田さんだったが、気づいたことがあった。訴訟になっている案件の契約書を見ると、「なぜこの一文を入れておかなかったんだ」「これがこう違っていたらもうちょっと楽に戦えたのに」と、文言をチェックしていれば解決できたのにと悔やまれるようなものが多数存在したのだ。
たとえば、こんな訴訟案件があった。
ある小売企業は、ベトナムの会社から物品を仕入れたものの、十分に検品しないまま代金を支払った。しかし、製品をよく見ると、求めていた品質を大幅に下回っていたのだ。すぐに返金を求めたのだが、契約書には訴訟の場合は「ベトナムの裁判所で争う」という文言が入れられていた。
海外の裁判所は往々にして、自国企業に有利な判決を出しがちで、日本企業は不利になりやすい。この会社も、この契約書があったために結局負けてしまった。
契約書を交わす前に、弁護士にチェックさせておけば、その文言を外せた可能性が高い。契約書のチェックは、保険と同じで、リスクヘッジのために必要なのである。
とはいえ、企業が契約書のチェックをしない背景には、弁護士費用の高さがあることもよくわかっていた。契約書1通確認するにも数万円の価格が発生するわけだから、もったいないという気持ちが働くのもしかたがない。そんなもやもやした気持ちを抱え、日々の業務を行ってきた。