なぜ宝くじが当たっても幸せになれないか

投資をはじめとするお金に関する知識や知恵のことを、私は「お金のIQ(知性)」と呼んでいます。何も考えず、入ってきたお金をなんとなく使ったり、漠然と「もっとお金があったらいいなぁ」と夢見たりしても、人生には何も起こりません。お金持ちになるには、税金の知識やそのほか基本的な経済知識を身につけておくことが大切です。

ただ、いくらお金のIQを高めても、お金で失敗しないというわけではありません。

投資はその最たる例で、いくら勉強しても、実際に取引を始めてみると、なかなか考えた通りにはうまくいかないものです。

株価が上がれば慌てて買いに走ったり、暴落したりすれば今度はショックで損切りさえできずにただ呆然……。いくら頭でわかっているつもりでも、結局、「損をしたくない」という欲や不安、恐怖といった感情に負けてしまうのです。

感動というポジティブな感情は投資のヒントをくれるものですが、自分自身のなかにあるこうしたネガティブな感情は、ときに正常な判断力を奪ってしまうものでもあります。

そこで大切なのが、お金のIQだけでなく「お金のEQ(Emotional Intelligence Quotient)」、つまりお金に対する感情指数を高めていくことです。

かつて私が会計コンサルタントをしていた時代、クライアントに最初にアドバイスしていたのは、お金のIQでした。

ところが、どれだけ資産家になっても、「誰かに盗られるんじゃないか」「近づいてくるのは、お金目当てのヤツばかり」などと、お金を失うことを恐れて人を信じられなくなっていく人もいました。

感情をコントロールできず、感情に振り回されてしまうからです。

海外では、高額宝くじに当選した人が不幸になったというニュースを時々目にしますが、それも、金額の大きさにその人のEQがついていけなかったのが原因です。大金を前に舞い上がって我を忘れるようでは、まだまだお金持ちの器とはいえません。

お金が入ったときも出ていくときも「ありがとう」

お金が入ってくれば「少ない、まだ足りない、ごまかされた?」と不満を抱き、お金が出ていくときには「高い、また減った、損した、もったいない」と罪悪感や苦々しさでいっぱいになる――。

「お金のEQ(感情指数)」が低いと、そんなふうに、お金の出し入れのたびにいちいちネガティブな感情に襲われます。

お金に対する不満、悲しみ、憎しみ、怒り、失望。これでは、いくらお金を稼ごうが貯めようが、結局、富や幸せには恵まれません。

お金のEQを上げる方法は、こうしたネガティブな感情をポジティブな感情に書き換えていくことです。

では、どうしたらその書き換えができるのでしょう?

答えは、とても簡単です。お金が入ってくるときも出ていくときも、心から「ありがとう」と感謝する。ただそれだけです。

感謝の瞑想ハンドジェスチャー
写真=iStock.com/microgen
※写真はイメージです

もちろんこれは、「ありがとう」と呪文を唱えてさえいれば、翌朝、財布の1万円札が倍になっている、などという話ではありません。

たとえば、何カ月も通い詰めた営業先から、結局契約が取れなかったという場面を想定してみてください。

「あんな客、二度と相手にするか!」

と、ふてくされて背を向ければ、関係はそこ止まりです。

けれど、今回はダメでも会社にとっては大切な顧客と考え、

「話を聞いてくださって、ありがとうございます」

と感謝してつき合いを継続していったとすれば、どうでしょう。相手もその気持ちを意気に感じて、次にはチャンスをくれるかもしれないと思いませんか?

感謝するかしないかで、相手のこちらに対する感情がまるで違ってきます。これが、人間関係のセオリーなのです。