昇進の機会は逃さないで

女性は男性に比べて、昇進を躊躇する傾向があります。これは日本に限った話ではなく、世界中どこも同じのようです。私も経営トップの方から、「女性活用を進めたいのに、肝心の女性が昇進したがらない」と相談されることがよくあります。声をかけても、「自信がないから」と辞退することが多いというのです。

例えば、あるポストに就くために必要なスキルが10あるとします。男性の場合は「私は10のうち大事な3つのスキルでトップクラスの実力があるので昇進させてください」とアピールするのに対し、女性は7つスキルを備えていても「私は3つのスキルがまだ備わっていないので、昇進にはふさわしくありません」と答えてしまう人が多い。

さきほど、“Don’t try to be a man.”と言いましたが、ここではちょっと、男性っぽくなってみてほしいと思います。自信を持ってチャレンジしてほしいのです。

管理職になると新しい世界が開ける

また、管理職になることに対して「責任が増えて、残業時間が増えるだけ」といったネガティブなイメージを持っている女性も少なくありません。でも実は、給料が上がる以上に良いことがたくさんあることも、知ってほしいと思います。

まず、決定権を持っている人との距離が近くなります。組織の方向性や戦略に関わることができる範囲が広がります。

例えば当社では、2008年から「10,000 Women」(1万人の女性)という、新興国の女性起業家を対象とした教育支援プログラムを行っています。このプログラムが始まるとき、私はパートナーのポジションにあり、マネジメント層に近かったので、いろいろと相談を受けました。

既に「ウーマノミクス」のリポートも書いていましたから、プログラムに対して「女性が力をつけてビジネスや社会に参加すれば、さまざまな経済効果につながる」というインプットができました。女性のエンパワーメント、特に新興国の女性を支援したいという気持ちはずっと持っていたのですが、決定権を持つ経営層の近くにいたからこそ深く関わることができたのです。

それに、決定権を持つ人たちから学ぶことも、本当に大きいです。さまざまなインスピレーションをもらえますし、学ぶ機会も増える。別世界が開くということを知っておいてほしいですね。

もちろん管理職は、楽しいことばかりではなく、大変なこともたくさんあります。しかし人間は新しいことに挑戦して初めて、今まで使わなかった筋肉を使うようになります。運動と同じで、「きつくてイヤだな」と思うことや、筋肉痛になったりすることもあります。でも、その痛みを超えると新しい筋肉がついている。できることが大きく広がります。振り返ってみると、そうした筋肉痛は成長のあかしなんです。

構成=池田純子

キャシー 松井(きゃしー・まつい)
MPower Partners Fund L.P. ゼネラル・パートナー

ゴールドマン・サックス証券会社、元日本副会長およびチーフ日本株ストラテジスト。1999年に提唱した「ウーマノミクス」の概念はその後広く世界に浸透し、日本政府も女性活躍推進を経済成長戦略として打ち上げるに至った。多様性、コーポレートガバナンスと持続可能性を経済合理性の観点から分析し、多くの企業や投資家に影響を与えている。2020年に『女性社員の育て方、教えます』を出版。ハーバード大学、ジョンズホプキンズ大学院卒。