社長になって初めて見えた「男社会の壁」
【白河】女性活躍推進法の施行は2016年でしたね。ほかの企業がようやく策を打ち始めた頃、御社はすでに30%を達成されていたと。そうした風土の中、及川さんは初の女性社長に就任されたわけですが、経営のトップに立ってみて、見える景色は変わりましたか?
【及川】変わりましたね。正直、社員の立場から好き勝手に意見を言っているほうが楽でした(笑)。今は女性の社長がいる企業は少なくないと思いますが、当社では私が初ということで報道でも取り上げられ、女性にとって歴史ある企業の壁はまだまだ厚いんだなと実感しています。同時に男社会の壁にも気づかされ、あらためて驚きました。
【白河】でも、これまでも経営層への階段を着実に上ってこられていましたよね。その過程で、男社会の壁を感じることはなかったのでしょうか。
【及川】ありませんでした。社員や役員の一人だった頃は、逆に「日本の女性ってすごく元気だよね」と思っていたぐらいです。確かに、経営幹部の養成講座では紅一点でしたが、当時から役員、管理職に子育て中の女性がいて、その後はその比率も上がってきていましたから。
ところが、社長になったら急に周囲の同じ立場の方は男性だらけになってしまって。他社の男性経営者とお会いする機会も増え、自分がこれまで当たり前だと思っていた“女性が活躍できる環境”が、実は当たり前ではないのだと気づかされました。
【白河】社長就任後には、国連グローバル・コンパクト(GC)とUN Womenによる女性のエンパワーメント原則「WEPs」に署名され、また女性役員比率30%を目指すグローバルなキャンペーン「30%クラブジャパン」にも入られましたね。社内の女性だけでなく、日本の女性たちのために発信したいことがおありなのでしょうか。
日本企業は女性の可能性を発見しきれていない
【及川】当社には女性社員のほか、全国に約4万1000人の女性ビジネスパートナーがいます。私はこれまでの経験を通して、女性には大いなる可能性があるという事例を間近で見てきました。そもそも化粧品は人の美や可能性を広げるものであり、それを販売するポーラレディも、セールスマン募集の張り紙を見て「女性ではあきまへんか」と応募してきた1人の女性から始まっています。今の当社があるのも、当時の男性社員が彼女の可能性をつぶさなかったからこそです。
一方、今の日本ではまだ、多くの企業が女性の可能性を発見しきれていないようです。これは男社会の根強さを表すものでもあるでしょう。この点は、女性活躍の歴史を持つ企業として、また女性経営者の一人として、しっかり発信していきたいと思っています。