「なぜできないの?」を封印。管理職として一歩引く姿勢

さらに本部で苦しんだ経験があったから、営業職時代のチーム運営を振り返る機会にもなったと、金子さんは思う。

「『なぜできないの?』と言われても、どうにもできない悔しさもわかりました。あの頃の私には部下に寄り添い、相手の立場になってアドバイスをしようという配慮が欠けていたんですね」

その反省は次の現場で生かされ、一人ひとりの個性を伸ばす育て方も心がけるようになった。一方、自分自身のキャリアアップも考え始めたとき、再び本部への異動が決まる。30代半ばになる頃だった。

社内でも女性活躍が推進され、女性の管理職も増えつつあった。2度目の本部では仕事の楽しさを感じられ、衝突しながらも自分の意見を主張することができた。だが、そんな矢先、金子さんは上司に苦言を呈されたのだ。

「周囲の意見を聞いているのかと言われ、初めはその意味がわからなかったんです。でも、思い当たることがありました。自分の年次が上がるにつれ、後輩が意見を言えない雰囲気をつくっているかもしれないと。さらに上司から『管理職になっていくのであれば、自分の思いを通すだけでなく、一歩引いて俯瞰して物事を見ることが大事』と言われたのです。それは私に、いつまでも自分が前に出ていくのではなく、全体を見る立場になることを考えさせてくれる言葉でしたね」

営業現場で、長年活躍してきた女性たちから学ぶこと

日生の営業部は全国に1600ほどある。金子さんは入社17年目、38歳のときに営業部長に昇進。東京都心の営業部へ配属された。営業部のメンバーは24歳から70歳まで15人の女性たち。年代もさまざまなメンバーをまとめることに、かつてないプレッシャーもあった。

「これを言ったら嫌われるかなと遠慮してしまったり、関係が悪くなるのが怖くて、言いたいことを伝えられなかったり……」

そんな金子さんにとって、決して忘れられない出来事があった。ある日、営業先の企業へ行く69歳の部下に同行することになった。お客さまとの契約が無事に決まった帰り道、金子さんが「良かったね、良いお返事をいただけて」と部下に話しかけたときのこと。

「ふだんは物静かで黙々とお仕事される方なのですが、『部長、まさかあきらめてないよね』とぼそっと言われたんです。あのときの私は自分が目指していた目標をなかなか達成できず、一人不安を抱えていたのが見えたのだと思う。情けないことに気持ちが負けていたんです。だから、その方はきっとすごく考えて必死で言ってくれたのでしょう。『私もがんばるから』と励ましてくれたのだとわかり、さすがに涙がこみあげました」

その夜すぐに二人のリーダーを集め、なんとか目標を達成したいという思いを伝えた。すると彼女たちも「実は、何となく先週くらいから部長のトーンが少し下がったような気がしていました」と言い、「部長の思いを早く伝えてほしかったぐらいです。今から、全員で目標達成に向けてがんばりましょう!」と背中を押してくれた。

そこからは具体的な指示を部下一人ひとりにしっかり伝え、チーム一体となって動き出す。初年度の目標は無事に達成されたのだった。

あのときの部下のひと言で、最後まであきらめずがんばることを教えられたという金子さん。長年、営業の現場で活躍してきた女性たちから学ぶことは多かった。

「人生経験や知識が豊富で、ご家族のことを本当に想っていることがわかります。お客さまの年齢とともに保険金の支払いに携わるケースが多くなりますが、何かあったときの対応も早く、いちばんに動く姿勢はすごい。そうした仕事への誇りは後輩たちに受け継いでいきたいですね」

入社17年目。はじめて営業部長に昇進した日にメンバーと撮影
入社17年目。はじめて営業部長に昇進した営業部で最終日にメンバーと撮影