気づけば父親と同じ仕事人間になっていた

「父の口ぐせは『変化を恐れるな、変化できる者だけが生き残れる』。まさにそれを体現するような決断だったと思います。父がずっとその姿勢を貫いてくれたおかげで、社長交代も社名変更も、社員全員が前向きに受け止めてくれました」

黒須さんは幼い頃から、仕事人間の父親と、それを応援する母親の姿を見て育った。父親の生き方を「かっこいいけど大変そう」と思っていたそうだが、気づけば自分も同じ仕事人間になっていた。いいと思ったらすぐ行動するところ、何かにつけて現場を手伝いたがるところも似ているのだとか。

加えて、意識的に受け継いでいきたいと思っていることもある。父親は、会社は社員が豊かで穏やかな人生を送るために存在する、利益や事業拡大は手段にすぎないと言い続けてきた。この理念には黒須さんも深く共感しており、だからこそ猛然と変化し挑戦していく覚悟を固めている。

通販事業は物流に大きなコストがかかる。ここが値上げされるとダメージは半端ではなく、また近年はAmazonなど巨人にも売り上げを奪われつつある。こうした現状をにらみ、cottaというサイトを核とした広告事業など、今後は通販以外のビジネスモデルも模索していく予定だ。

まずは自分の気持ちが安定していることが大事

「忙しい毎日ですが、私自身の気持ちが安定していないと経営も安定させられない。だから、自分が幸せだと思える環境をつくれるよう意識しています。その意味で、出産や子育てはとても幸せな経験で、自分はそんな経験にも仕事にも恵まれて本当にラッキー。そのぶん努力しなきゃと思っています」

夫は第一子が生まれたのち残業の少ない仕事に転職し、その後さらにcottaに転職。黒須さんの社長就任後は、本社を拠点にして東京での案件はリモートワークで行うことに決め、家族全員で大分県に引っ越した。

自らの経験を踏まえて、黒須さんは「女性が出産後も働く上で夫の協力は絶対条件」と語る。自社の女性社員とも、出産後の働き方や会社が期待することなどについてよく話し合っているという。

「職場に行けばやりがいのある仕事があって仲間がいて、家に帰れば豊かな時間が待っている。うちの社員には、全員そんな生活をしてもらいたいんです。そのために、これからも一生懸命、変化と挑戦に取り組んでいきます」

文=辻村洋子

黒須 綾希子(くろす・あきこ)
cotta 代表取締役社長

1984年生まれ。明治大学卒業。インテリジェンス(現・パーソルキャリア)を経て2010年、父親が経営するタイセイ(現・cotta)に入社。14年、同社のECサイト「cotta」の運営会社TUKURUを設立。20年に現職に就任し、タイセイは商号をcottaに変更。4歳、1歳の双子の3児の母。