出生率を結婚と結びつけて考えるなんて……

「お母さんが子どものお弁当を作るのは当たり前」「シッターさんに頼らずやっぱり子どもはやっぱりお母さんが見たほうがいい」「やっぱりPTAはお母さんがやらないと」「昔の人も頑張ってたんだからやっぱり出産は自然分娩でないと」――一つひとつを聞くと、なるほど、と思ってしまいそうなものもあるかと思います。

「弁当作りが嫌だから子どもを産むのをやめよう」と考える女性はいないでしょうし、「PTAが大変だから子どもを産むのもやめよう」と考える女性もいないでしょう。でもこの手の「ちょっとしたこと」の数がとにかく多いので「塵も積もれば山となる」で、結局お母さんは大変な思いをすることになってしまいます。

先日「内閣府、新婚生活60万補助へ」というニュースが話題になりました。見出しだけを目にすると新婚なら誰でも60万円をもらえるのかな、と勘違いしてしまいそうですが、あくまでも「結婚新生活支援事業」を実施する市区町村に住んでいる人が対象で、これまでは「婚姻時の年齢が夫婦とも34歳以下」だったのが今後は条件を「39歳以下」と緩和し、また世帯年収も今までは「480万円未満」という条件だったのを「540万円未満」という条件に変えるというだけのことです。「新婚さん」を対象に規制が一部緩和されたのは少子化対策の一環だといえるでしょう。しかし出生率を結婚とつなげて増やそうとするなんて、今時、少なくとも先進国では聞いたことがありません。

例えばドイツでは出生率を上げるために2015年にElterngeld Plus(「両親手当プラス」)というものを導入しましたが、これは通常の受給期間に加え、両親が共に週25~30時間勤務する場合、最低でも4カ月の受給を可能にする「パートナーシップ・ボーナス」です。両親が結婚していなくてもこれを受けることができ、性別にこだわらずに時短勤務を奨励するものとなっています。

日本の少子化対策は時代遅れ感が強い

日本の少子化対策については、どこか時代遅れなところが一番の問題なのではないでしょうか。「子どもを産み、育てる」ということは、それ以上でも以下でもないはずなのに、そこに「婚姻しなければいけない」と生き方に縛りがあったり、ほかの先進国では見られない日本独自の「お母さんだからやらなければならないこと」が山積みになっているという状態。

どういうライフスタイルを選ぶか、どう生きていくかは本来自由なはずです。でも「お母さん」になったという理由だけで、自分の生き方を諦めなければいけないのだとしたら、お母さんになるという道じたいを選ばない人が増えるのは自然な流れなのではないでしょうか。

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サンドラ・ヘフェリン(Sandra Haefelin)
著述家・コラムニスト

ドイツ・ミュンヘン出身。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフ」にまつわる問題に興味を持ち、「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。著書に『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)、『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)、『ほんとうの多様性についての話をしよう』(旬報社)など。新刊に『ドイツの女性はヒールを履かない~無理しない、ストレスから自由になる生き方』(自由国民社)がある。 ホームページ「ハーフを考えよう!