母の苦労は、子どもに対する愛情なのか
子どもを産みやすい環境について考えるとき「子どもが保育園に入れること」「男女ともに育児休暇がとりやすい環境であること」など制度面が整っていることが必要なのは言うまでもありません。でもそれと同じぐらいに女性がお母さんになることを阻んでいる「遠因」の数々を消し去ることも大事だと思います。一見「子供を生むこと」そのものと関係のないことのように思えることであっても、「塵も積もれば山となる」で「ちょっと大変」だと思われるようなことが沢山あると、子どもを持つことを躊躇してしまうかもしれません。
例えば社会の中に断固としてある「お母さんなんだから、これぐらいして当たり前」という雰囲気。
普通に考えて「朝5時に起きてお弁当を作っている人がいる」と聞けば、「うわぁ、毎朝、早起きして台所で準備するなんて大変」と思いそうなものですが、実はお弁当を作っているのが「子どもを持つ女性」つまりは「お母さん」だと分かった瞬間に、なぜか「大変さ」にはスポットが当たらなくなり、「子どものためだったら、お母さんが早起きするのは当たり前」「ほかのお母さんも朝5時起きで頑張っている人はいっぱいいる」などという話の展開になりやすいのです。日本では「朝、早起きして子どものお弁当を作っているんです」と語る母親に同情してくれる人はまずいません。お母さんがどんなに睡眠不足になっても周囲はおかまいなしだったりします。子どものお弁当作りが本当に必要なのかどうか見直そうという雰囲気も見られません。
というのも「かあさんの歌」(歌詞「かあさんは夜なべして手ぶくろ編んでくれた」)のように日本では「お母さんの苦労」が「子どもの幸せ」だという感覚が強いのでした。
ドイツでは「苦労をいとわないお母さん」は美化されない
出羽守で恐縮ですが、筆者の母国ドイツには子どものために朝早起きしてお弁当を作る「お母さん」は皆無です。幼稚園や小学校に通うわが子にタッパーウェアを持たせる親はいますが、タッパーの中身はバナナやリンゴだったりします。日本のキャラ弁のようにリンゴをかわいい形にアレンジして切るなどの工夫はされておらず、林檎は大ざっぱに4等分に切られているだけです。「キャンプに出かける」とか「子どもが急病」などの理由がない限り、朝5時に起きるドイツの「お母さん」はまずいません。そもそも「子どものために苦労をいとわないお母さん」はドイツだとあまり美化されません。。
ただし「お弁当」に関していうと、ドイツにはもともと「お弁当文化」がなく、また「手作りの食事」や「手の込んだ食事」の優先順位がそれほど高くない、といった「食文化そのものが違う」という点も大きいので、この問題をジェンダーの話だけに絞ることができないのもまた事実です。