意外に大きいシナジー効果

従来、アウトドア製品を展開していた同ブランドが、「マタニティウエア」という新たな市場に参入する。こうした考え方は、マーケティングでいえば、シュンペーターの「イノベーション理論」や、「範囲の経済性」で説明できます。

前者は、既に存在する商品やサービス、概念を、異なる「意外な分野」の商品やサービス、概念と組み合わせることで、新たな価値を生むという考え方。経済学者のシュンペーターが、「新結合」という言葉で提唱した発想です。

後者は、企業が既存の事業で既に持つ、技術やブランド、人材、生産設備などの「資源」を、別のジャンルも含めた複数の事業(拡大範囲)することで、「コスト」を抑えようとの考え方。

ですが、ここで見過ごされがちなのが、「シナジー(相乗)」効果です。

これを「成長マトリクス」や4つの分類(下記)で説明したのが、経営学者・アンゾフ。彼が言う通り、範囲の経済性は、単にコストカットだけをもたらすのではありません。

そこで生まれるのは、異質なもの同士が結合することで起こる、新たな「化学反応」のような相乗効果。

【図表1】範囲の経済性やM&Aがもたらす「シナジー」分類(by・アンゾフ)

ザ・ノース・フェイスは、既存のブランドや技術、販売チャネルを活かして「マタニティウエア」という新たな分野に進出しました。ここまでなら、「生産・経営シナジー」に留まるでしょう。

ですがそのことで、ブランド価値までもが上がり、従来はアウトドア目的でしか訪れなかった顧客にも、マタニティウエアや、同じ店舗に置かれているキッズウエア、シューズまで売れるとすれば……、完全に「販売シナジー」にも発展したことになります。