前年比310%の受注、発売して初めてわかった予想外の展開

また、20年春に発売した、第2弾のマタニティウエアでは、レインコートやオーバーオールが好評だったと、矢野さん。

「オーバーオールは、トイレが近くなりやすい妊婦さんも意識して、わざわざ肩紐を下ろさずにトイレに行ける設計になっています」

これも、アウトドア分野で採用してきた概念や技術の応用だと言います。

20年の春夏商品は、新型コロナウイルスによる「緊急事態宣言」の影響を受け、発売を1週間遅らせるなど影響も出たそうですが、「ECサイトでの売り上げが好調で、『これは、春夏以降もイケる』との感触を得ました」と矢野さん。

その読みが見事に当たり、秋までには販売店舗が当初の2倍に増えたほか、受注金額は、なんと前年対比で310%にものぼったとのこと。

発売してみて「いい意味で、予想外だったこともある」と矢野さん。

「実は従来、ザ・ノース・フェイスの店舗にあまり来店されなかった女性客のほか、それまでアウトドア目的でしか訪れなかった男性のお客さま(おもにパパ)までもが、「マタニティウエア」の売場に新たに来てくださるようになったんです」

「マタニティウエア」の対象は実は狭くない

この成果は貴重です。一般には、マタニティウエアというと、ターゲットが「妊婦さんだけ」と限られるように発想しますが、実は「産前・産後兼用」とすれば着用時期や対象を増やせるだけでなく、子をもつパパたちまでもが興味を抱いてくれるかもしれない。

そうなれば、ザ・ノース・フェイスの認知度そのものが上がるほか、来店頻度や売上の拡大、ブランド価値の向上にもつながるでしょう。

「ママたちの細かな心理にも配慮する、革新的なブランド」とのイメージが定着すれば、パパたちが「それなら、マタニティウエア以外のキッズウエアやシューズを、プレゼントに買って行こうか」と考える可能性も、期待できます。