アウトドアブランドが、なぜ「マタニティ」へ?

「商品の開発前、妊婦さんは、アウトドア製品を開発する我々と、ある意味で遠いところにいるのではないかとも考えました」と話すのは、ゴールドウイン ザ・ノース・フェイス事業一部の矢野真知子さん。ご自身も、4歳の双子をもつ「働くママ」です。

ザ・ノース・フェイスは2018年から、世界各国で「SHE MOVES MOUNTAINS」にハッシュタグ(♯)をつけたキャンペーンを展開。日本では昨秋以降、「私が動けば世界が動く」という独自のステートメントを掲げ、「女性の挑戦や冒険」を応援するメッセージを発信しています。

2020年3月に改装開業した女性向け業態「ザ・ノース・フェイスマーチ」(原宿店)
2020年3月に改装開業した女性向け業態「ザ・ノース・フェイスマーチ」(原宿店)

「一方で、私も体験がありますが、妊婦さんは体が身重になったり、体形が変化する以外にも、飲酒行為や外出時の行動など、いろんなことが制限される傾向にあります。『もっと挑戦したい、冒険したい』と思っても、なかなか前向きになれないことも多いものです」(矢野さん)

また、一般にはトイレが近くなったり、体が冷えやすくなったりと、体の機能にも負荷がかかってくると言われます。

「子宮とともに膀胱が圧迫されることで、尿意を催しやすくなりますし、代謝が上がって汗をかきやすいため、汗で濡れたままの服を着ると体温を奪われやすいんですよね」と、矢野さん。

実は、アウトドアウエアの高機能な快適性は、まだまだママたちには伝わっていない側面がある。ならば、自分たちアウトドアメーカーが、その打ち出しに挑戦すべきでないか……。そんな思いで、ザ・ノース・フェイスが2019年10月上旬から展開を始めたのが、ダウンコートやフリースワンピースなどの、「マタニティウエア」(全6品目)でした。

マタニティウエアで発揮できる2つの強みとは

コンセプトは、「生まれてくる子どもとママに、自然の中に出かけてもらいたい」。

矢野さんによると、「自社がマタニティウエアを展開する意義を市場で認知してもらううえで、重視した点が2つあった」といいます。

1つは、女性たちの精神的・肉体的ストレスを軽減できる、価値ある商品であること。

そのうえで、ザ・ノース・フェイスが長年、アウトドア製品などの開発で培ってきた「機能性」や、「脱ぎ着がしやすい」「動きやすい」など、妊婦さんでも心地よく着られる「パターン(型)」を随所に採用した、と説いたそうです。

もう1つは、「長く使える商品であること」だと矢野さん。

従来のマタニティウエアは、着用時期が限られる商品も多いイメージですが、同ブランドのシリーズについては「妊娠中・産前」から、子どもとの外出が増える「産後」まで、着用シーンを広く「産前・産後兼用」とすることで、「長く使えることの付加価値を感じてくれる方も多いはず」だと伝えたと言います。

「ですがそうなると、例えばワンピースの場合、「妊娠中」は、お腹が大きくなっても着用しやすいゆとりあるサイズ感や、前裾が上がりにくいパターン設計が重要ですし、一方の「出産後」は、授乳のしやすさや、上から抱っこ紐を背負っても擦れにくい切り替え設計など、細かな配慮が必要になります。実現できたのは、これまでアウトドアで蓄積したノウハウがあったからこそ、でしょう」(矢野さん)