なぜ“大阪のおばちゃん”的なシャンプーばかりだったのか
それまでシャンプーやコンディショナーのパッケージといえば、華やかなものと決まっていました。ところどころに金色を使ったりして、ゴージャスといえばゴージャスですが、「いかにも」な豪華さが、悪くいえば「大阪のおばちゃん」的といえなくもない。
シャンプーマーケットでマスを狙おうとすると、あまりヘアケア製品にこだわりのない人たちをターゲットにすることになります。「値段が安いから、なんとなくこれでいいわ」という人たちの人数がいちばん多いからです。そういう人たちには、このわかりやすい豪華さがよかった。
しかしヘアケア製品にこだわりのある、感度の高い人たちもいます。そういう人たちの間では、アメリカの「ジョン・マスター・オーガニック」や、オーストラリアの「ジュリーク」といったオーガニックな製品が人気です。しかしこちらは植物由来成分をふんだんに使っているので、とにかく値段が高い。ボタニストは1500円くらいですが、ジョン・マスターなどは3000円くらいする。
ただジョン・マスターやジュリークを見ていると、「いずれシャンプーやコンディショナーは、オーガニックが主流になる」と予想できます。とくに若い世代は環境問題に関心が高く、かつオーガニックに興味をもっているからです。大手メーカーも、ここに大きなニーズがあることはわかっていました。それでもなかなか踏み切れず、「いつやる?」「どうする?」と様子をうかがっていたときに出たのが、このボタニストだったのです。
「わかっていたのにできなかった」理由3つ
ではなぜ大企業はボタニストをつくれなかったのでしょうか。
たとえば仮に「時代はオーガニック」と、大手メーカーが言ったとしましょう。その大手メーカーには、ほかにもいろんなブランドがあります。「時代はオーガニック」と言ってしまうと、そのとたん、「いままでの商品にはこんな余分な化学成分や、得体の知れないものをいっぱい入れてました」……ということになってしまう。
だから、もし一人のブランドマネージャーが「これからはオーガニックですよ」と力説しても、会社としてはそこに踏み込むのが難しい。大手企業ほどなかなか自分たちを否定できないのです。
そして大手が「ボタニスト」を出せなかった2つ目の理由は、成分表示や効能書きにまつわる部分にあります。大手が「オーガニックシャンプー」を出すなら、オーガニック認定を受けた植物由来成分の配合比率を下げるわけにはいきません。ジョン・マスターやジュリークと同じくらいの配合比率にしないとまずい。そうなると当然、価格は上がります。
そして3つ目に、ヘアケアブランドである以上、「髪をきれいにする」という効能を謳いたい。しかしオーガニックであることと、髪がきれいになることは、実をいうとあまり厳密な相関関係はありません。
その点ボタニストのすごいところは、(つい最近、プレミアムラインを出すまでは)モデルがストレートのロングヘアをかきあげているようなヘアショットをどこにも使っていないことです。普通はどれだけ髪がきれいになるかをモデルの髪のツヤなどで表現するのですが、そこが潔く省略されている。
さらにボタニストがある意味でよくできているのは、「植物とともに生きるボタニカルなライフスタイルを提供する」とだけ書いてあって、「オーガニック」とはどこにも書いていないことです。
大手では、このような手法をとることに、リスクを感じてしまう。だから身動きがとれなくなってしまったのでしょう。