寄り添うだけではいけない。マネジメントの難しさを痛感
村井さんはできるだけスクールに足を運び、現場の様子を把握するよう努める。部下と面談する機会も多かったため、そのたびに「なんでも言ってね!」と寄り添う言葉をかけた。だが、それが裏目に出て、部下の甘えにつながったこともある。上司としての指示や忠告を伝えても、「じゃあ、そちらで対応してください」などと反発され、威圧的な態度をとられて悲しくなったこともあるそうだ。
今も苦い思い出なのが、自分が指導をした直後に、部下のひとりが突然辞めてしまったことだ。あるとき、その部下がマネージャーを務めるスクールの生徒からクレームがあり、村井さんが対応に当たった。後に内容と今後の対応に関するアドバイスを、電話で伝えたところ、彼女からいきなり退職届けが送られてきたという。
驚いた村井さんは急いでスクールへ駆けつけ、二人で話し合ったものの、彼女は前々から辞めようと思っていた、今回の一件のせいではないと言う。それでも村井さんは、今まで優しく寄り添ってきた自分に急に上司らしく指導されたことが嫌だったのではないか? ただ優しくするだけではなく、言いたいことを言い合いながら良い関係が築けていれば、この退職は防げたのではないか? などの悔いを感じ、今までの自らのマネジメントを反省したという。
その後は、部下と接する際に、部下の希望に応える努力をするというよりも、「迅速に、誠実に、曖昧にせず、対応すること」を意識し、言葉ではなく行動で相談しやすい環境づくりを整えるよう努めた。また、相談を受けた場合には、自らの意見を述べたり判断をくだしたりする前に「~さんは、どうしたい? どうしようと思ったの?」などと投げかけ、部下が自ら時間を設けてから、背中を押すアドバイスをするように心掛けるようになった。
さらに、この話をするのは電話やメールで良いか? これは本社で直接話した方が誤解なく伝わるのではないかなどと、伝える手段やタイミングを考えるようにもなったという。
ただし、エリアマネージャーとして退職面談で部下を引き留める一方で、自分も逃げ出してしまいたいと思う時があったと、村井さんは振り返る。
「まだエリアマネージャーになって一年も経っていなかったので、ここで投げ出せない。せめて3年はがんばろうという気持ちでいたのですが、マネジメントの難しさを痛感し、自己嫌悪に陥るたびに、自分のタイミングでスパッと辞められることをうらやましく思うこともありました。この大変さがずっと続くのかと思うと、先の見えない不安があったのかもしれません」
再開したスクールで、生徒やスタッフに元気をもらう日々
それでも続けられたのは、かつて自分も生徒として感じていた思いがあったからだ。イーオンに来ることで元気になれる――。スクールの現場にいるとそう感じられる瞬間があり、やっぱりこの仕事が好きなのだと思えた。
スクールでは幼児から高齢の生徒までさまざまな人たちが通う。それぞれに成長していく姿を見たり、生徒から嬉しい言葉をかけられたり。〈ここに来るのがすごく楽しくて、人生が豊かになりました〉という手紙をもらったこともある。そうした人との関わりが励みになってきた。
それだけに今年4月に直面したコロナ禍の休校はつらかったが、現場の仲間と励まし合いながら乗り越えてきた。今は再開したスクールで、生徒やスタッフの笑顔に元気をもらっているという村井さん。