「物損事故の処理でいいですか」警察からの信じられない言葉

ところが、Aさんは事故当日、警察の不可解な対応に驚いたという。

「救急病院に搬送された私は全身骨折だらけでした。その上、挫傷した肺に血がたまっていたため、胸腔ドレーンの他、いろいろなパイプにつながれ、ベッドの上で動くことすらできませんでした。そこへ、担当の警察官と名乗る人からいきなり電話がかかってきたんです。なんと、『物損事故の処理でいいですか?』と言われて、一瞬、意味が分かりませんでした。明らかな人身事故なのに、なぜ物損事故という言葉が出るのか……」

警察からはそれから2週間後にも、

「物損事故の処理をしなくてもいいですか?」

と、同様の連絡が入ったという。

「実は、実況見分は事故の相手であるBさん立ち合いの下ですでに取り行われていました。その結果、警察は、この事故の原因は私が後方を確認せず、突然進路変更したこと、つまり、Bさんの進路妨害をしたことだと決めつけていたのです」

「無理な車線変更をしたつもりはありません」

しかし、Aさんはどうしても納得できなかったという。

「自分としては無理な車線変更をしたつもりはありませんでした。それに、ドライブレコーダーの映像を確認したところ、相手のバイクが法定速度を超えるスピードを出していることは、周囲のクルマやバイクとの速度差を見ても一目瞭然でした。もちろん、こちらに全く非がなかったというつもりはありませんが、相手の言い分だけを基にして、全面的にこちらに過失があるという判断をされるのは受け入れがたいものがありました」

もし、Aさんの全面的過失ということになれば、自賠責保険が「重過失減額」される可能性がある。最悪の場合、「無責」(100対0=相手にはまったく責任がない)と判断されて、自賠責も任意保険も全く支払われないということになりかねない。

大けがをした当事者にとって、事故原因や過失の理不尽な認定は、損害賠償にも直結する深刻な事態となってしまうのだ。

公安委員会への苦情申し立てで分かったずさんな捜査

事故から10カ月後、Aさんは埼玉県公安委員会に苦情申し立てを行った。一連のやり取りの中では、捜査に関するさまざまな事実が明らかになったという。

「事故当日、友人はドライブレコーダーの映像を警察に提供してくれていました。ところが、その映像が、証拠資料として検察に送られていなかったことがわかったのです。警察は、『手元にある資料は、証拠として検察庁に提出しますから』と言っていたのですが……」