企業体質は稲盛和夫氏の「血」を感じられる

JALは3000億円規模の資金確保をしました。内訳は、20年3月中旬に社債発行を行い、200億円を確保しました。次に、取引先金融機関からの借り入れ2100億円。最後に、航空機の売却と売却後リースバックです。航空機の現金化を行い、600億円の資金確保をしたのです。自社内で変化できる部分に迅速に対応するといった企業体質は稲盛和夫氏の「血」を感じられる部分でしょう。これによって、20年6月末時点で手元の現金および預金は3943億円と、20年3月末での3291億円を上回っています。

ANAも、資金調達に奔走しています。10年の経営破綻時に債権放棄などを受けたJALに比べ、ANAはさらに厳しさを増しています。報道によれば、ANAは20年4月に「日本政策投資銀行への要望」を首相官邸、国土交通省などに提出していますが、その政投銀を越えての政府へのお伺いは「掟破り」で、ANAはそれほど窮地に追い込まれています。資金調達は1兆350億円の資金を確保しており、追加で「劣後ローン」と呼ばれる返済の優先順位が低い代わりに金利が高くなる制度の利用によって、日本政策投資銀行やメガバンクなどと5000億円規模の協議が始まっています。

ANAはJALの2倍の資金調達に加えて、追加の調達に動いています。一方、JALは調達資金が今の規模で十分と考えていますが、ここでリース機の比率に注目です。JALは20年3月末時点でリース機の比率が10%、ANAは31%です。リース機は稼働がなくても、コストが発生するため、リース機比率の低さはJALの強みです。

これも、10年の破綻後の改革の恩恵といえます。破綻前の09年3月末のリース機比率は40%に達していましたが、稲盛改革によって不採算の地方路線を縮小し、リース機を含めて保有機自体の数を減らしてコストカットを行っていたことが財務規律に繋がり、今回のコロナショックにも効いているのです。

また、JALは破綻の経験から、安定的経営のために売り上げの約2.6カ月分の手元資金を維持すると18年の中期経営計画で述べています。20年3月期時点で現金預金3291億円と売上高に占める現金の割合である売上高現金比率は23%を保っています。一方、ANAは売上高現金比率が3.5%と、2社にはキャッシュを蓄える力に大きな差があります。

JALは21年3月期に1000億円超のコスト削減を検討しています。この中には、社員の一時帰休や雇用整理は含まない方針です。一方、ANAは大リストラ策などの事業構造改革を検討しています。なぜ、この差が生まれたのでしょうか。