役員就任は「夢」ではなく「自分の義務」だった
そこへ第三の転機が訪れた。担当部長になってしばらく経ち、会社主催の研修に参加した時のこと。プログラムの中に、社長になったつもりで議論する課題があり、本島さんは「自分に自信のない社長が社員から信頼されることなんてあり得ない」とはたと気づく。
「社長は、自分の強みを生かして会社や社会に貢献していく立場。じゃあ私の強みは何かと考えた時、多くの分野に全力で取り組んできたことだと気づいたんです。『専門性がない』のではなくて、『さまざまな視点を持っている』と思うことにしようと(笑)」
弱みだと思い込んでいたことを、逆に強みと捉えられるよう、自分で自分を切り替えた本島さん。以来「役割を果たす上で必要な自信を持つ」「自分を卑下しない」の2つを心がけるようになり、これが役員へのステップアップにつながった。
絶対に自分が役員にならなくてはいけない──。本島さんは、執行役員になる5年も前からそう思い続けていたという。社員の半数以上が女性なのに、女性役員がいないのは不自然。会社のためにも不可欠だと思っていたところに周囲からの期待も重なり、いつしか役員昇進を「自分の義務」と感じるようになっていった。
「でも自分一人で役員になれるはずもなく、自分にできるのは全力を尽くすことだけ。だから、昇進前の5年間は毎年、思い残すことのないよう、やれることをこの1年で全部やるという気持ちで仕事していました」
執行役員の内示を受けた時は、とにかくホッとしたそう。喜びよりプレッシャーや義務感から解放された安堵のほうが大きかったという。役員になるとプレッシャーもより大きくなりそうだが、第三の転機で得た自信が支えになっている。
今も女性執行役員は本島さんただ一人。だからこそ、自分の役割は「予定調和ではない何かをもたらすこと」だと考えている。会社のためになると思えば部署の垣根を越えて行動し、どのような会議でもあえて空気を読まずに発言。たび重なる異動で培ってきた幅広い視点と客観性が、今、大きな力を発揮している。
「少数派は、割合が3割を越えないと全体に影響を及ぼせないと言われています。意思決定のポジションに女性を増やし、会社を多様性のある環境にしていくのも私の仕事。さまざまな個性がぶつかり合って新しいものを生み出していく、そんな会社にしていきたいと思っています」
■役員の素顔に迫るQ&A
Q 好きな言葉
明日死ぬかのように生きよ。永遠に生きるかのように学べ。(ガンジー)
Q 愛読書
『イノベーション・オブ・ライフ』クレイトン・M・クリステンセン
『習慣の力』チャールズ・デュヒッグ
「2冊とも、目標を達成するための時間の使い方や、鍵になる行動を考える上で大いに役立っています」
Q 趣味
ランニング、バンド活動
Q Favorite item
アロマディフューザー
文=辻村洋子
1987年、一橋大学卒業後、住友海上火災保険入社。2003年、三井住友海上火災保険関信越損害サポート第一部、経営企画部次長などを経て、三井住友海上グループホールディングス企画部(CSR推進室長)。2018年、MS&ADインシュアランスグループホールディングス執行役員(ダイバーシティ&インクルージョン担当)、2021年、三井住友海上常務執行役員に就任。2018年より現職。