退職を思いとどまるも意欲は低空飛行

大学時代は弁護士を目指していたが、司法試験への合格がかなわず就職活動に方針転換。「人と人との間を調整する仕事」「総合職として採用してくれる会社」に的を絞って探し、前身の住友海上火災保険に入社を決めた。

女性総合職の第一期生で、同期の女性は5人だけ。しかし、職場で男女差や働きづらさを感じることはまったくなく、イメージ通りに働ける幸せな環境だったという。20代後半には、自分から申し出て女性初の長期海外研修も実現。部下の育成に熱心な上司に恵まれ、仕事への意欲も高い状態が続いた。

しかし、研修から帰国すると同時に、本島さんは大きな悩みを抱えることになる。アメリカへ行く前に婚約した同期の男性が、首都圏から長野へ転勤してしまったのだ。遠距離状態のまま結婚したものの、週一で東京と長野を往復する生活は想像以上に大変だった。

当時は「社内結婚は歓迎されていないのでは」と勘繰ったこともあったそう。会社から少し心が離れてしまったところに、いつになったら一緒に暮らせるのかという不安や疲れも重なった。先の見えない状態に闘志が失せ、本島さんはついに辞表を出してしまう。

「そうしたら上司に『簡単にあきらめるな。がんばれ』と一喝されまして。『辞表は俺が破って捨てた』と。あまりの勢いに圧倒されて、もう少しがんばってみようかなと思い直しました」

幸い、夫はその後すぐ首都圏に転勤になり、同居の希望はかなえられた。

これが第一の転機だった。もしあの時上司が引き留めてくれずそのまま退職していたら、早まったと後悔したのではないだろうか。社内初の女性執行役員になることもなく、まったく違う人生を歩んでいたかもしれない。

翌年、出産。育児休暇を経て職場復帰したが、そこからの10年間、モチベーションの面では低空飛行の状態が続く。育児のため思うように仕事の時間がとれず、周囲からの期待も感じられない日々。異動も2回あったが、いずれも未経験の仕事で「今から経験を積んでも周りの人に追いつけない」と自信をなくすばかりだった。

「この先も自信を持てる気がしなかったので、もう一度司法試験を受けようと。受かったら会社を辞めようと決意していました」