かつては必要だったが、今は無用の長物
PTAは世の中に数々存在する「かつては必要だったけれど今は無用の長物」だと言えるでしょう。それこそPTAが日本に入ってきた当時は、民主主義の原則に沿って「会員なら、誰でも発言ができ、何かを決定するまでに会議を重ねていく」という鏡のような組織でした。今で言うコンプライアンスも重視され、道徳的で倫理的な行動をとることを理念としていたPTAはある意味画期的なものでした。そして、60年~80年代と専業主婦が多かった時代には、「女性たちが平日にPTA活動をすること」は自然な流れだったと言えるでしょう。
しかし、しつこいようですが、フルタイムで働く女性が増えた今の時代に、ベルマークのように非効率的な活動の見直しをせず会合を平日の昼間に行うというのは、なんとも時代錯誤だと言わざるを得ません。
近年はPTAを退会したいという人に対して、「だったら卒業式の紅白まんじゅうをお子さんにはあげない」なんて警告をする人がいるなど、戦後のPTAの「民主的に」という理念からかけ離れたエピソードも目立ちます。
大阪府堺市の私立の中高一貫校では、ある親が保護者会を退会したことにより生徒が卒業式に記念のコサージュをもらえず、マラソン大会の際の特別給食が支給されなかった例もあります。言うまでもなく「親が会費を払っていないから&親がPTAや保護者会の活動をしないから、その子どもが仲間外れになっても仕方ない」という考えは間違っています。
場合によっては子ども同士のイジメに発展する可能性もあります。
PTAは義務ではなく任意。世間でもそう繰り返し謳われていますが、現実には退会することは、ある人たちから無言の「あなたとお子さんは村八分にして良いのですね?」という「確認」が入るというなんとも恐ろしい世界がそこにはあるのでした。
ドイツでは「やりたい親がやる」方式
私の母国のドイツでは、PTAに該当するElternbeirat(直訳は「親たちの会議」)がありますが、ドイツでは性別に関係なく親は働くものだという前提が社会にありますので、当然ながら会合は平日の夜に開催されます。日本と比べて父親の参加も多く、母親がタダで学校や地域にこき使われるということはありません。
学校や子どもの教育について親が提案をしたり、校長との面談の場を設けたりと教育のある種の改善を図る場となっているところは、日本のPTAと同じです。日本と同様に役員も選びますが、本当の意味で「あくまでもやりたい親」が集まるため、たとえばバイエルン州の公立の学校のElternbeiratは10人程度で回っているところが多いです。
このように「参加している親」の数がそもそも少ないので、Elternbeiratに参加しない保護者の子どもが不利益を被るということはまずありません。そうはいっても、もちろん人間が集まるところなので、Elternbeiratの中でも、気の強い親が主導権を握ったりとなんとなく上下関係のようなものが生まれるという話は聞きます。人間が集まると、どこもそういうことは避けられないのかもしれません。それでも、日本のPTAと比べると「参加しなくてもいい」のですから、ずいぶんお気楽なものです。
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ドイツ・ミュンヘン出身。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフ」にまつわる問題に興味を持ち、「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。著書に『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)、『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)、『ほんとうの多様性についての話をしよう』(旬報社)など。新刊に『ドイツの女性はヒールを履かない~無理しない、ストレスから自由になる生き方』(自由国民社)がある。 ホームページ「ハーフを考えよう!」