モノより体験や発見を売る店舗

「日本は成熟市場で、新しいモノ好きな方が多い国。また、商品説明などサービスの要求レベルも高いことから、われわれのビジネスモデルに合っていると判断しました」

と話すのは、日本法人ベータ・ジャパン カントリーマネージャーの北川卓司さん。本社が日本進出を検討し始めたのは16年、つまり創業の翌年だったと言います。

「売ることは目的にしない」とするb8ta(ベータ)のミッションは、「Retail design for Discovery(リテールデザイン・フォー・ディスカヴァリー)」。小売店でありながらも、モノより「体験や発見」を売る店舗で、店名には「ベータ版(テスト中の製品)」を含め、つねにアップデート(進化)する、といった意味が込められています。

顧客にとっての大きな利点は2つあります。1つは、求めれば店頭スタッフが詳しく説明してくれる半面、無理にモノを売ろうとしないこと。もう1つは、リアル店舗に「初出店」したコスメや雑貨、デザイン家電など、他ではあまり見ないワクワクするような商品に出会えること。

だからこそ、「新しいモノ好き」で「サービスの要求レベルが高い」日本の顧客は、メリットを感じやすいわけですね。

顧客のリアクションのデータが、出品企業に届く

実はb8ta(ベータ)は、最新のテクノロジーを駆使した店舗でもあります。顧客の店頭での「リアクション」がデータとして収集・集積され、それを商品の出品企業にフィードバックできるシステムを導入しているのです。

たとえば、有楽町店の場合。まず入口付近のカメラで、「何時何分に、どのぐらいの年齢の女性(男性)が入店した」と、顧客の属性が記録されます(顔など、個人情報が特定される情報は記録しない)。

b8ta(ベータ)有楽町店店内の様子。
b8ta(ベータ)有楽町店店内の様子。(筆者撮影)

また店内では、商品Aが陳列されている区画で、顧客が5秒以上足を止めたり、スタッフに具体的な説明を求めたりした際、その商品Aの出品企業に「顧客にこういうリアクションが何件ありました」との、定量情報が届きます。

質問内容も、スタッフがいったん専用スマホ等に記録しておき、なるべく早い段階でテキスト情報として伝えているとのこと。

購買につなげる仕組みは……?

つまり出品企業は、新宿・有楽町という好立地の店頭で自分たちの商品を広くアピールできることに加え、さらにどういう人たちが興味を持ち、とくにどのような観点を深く知りたいと思っているかなど、今後の可能性につながる情報を「見える化」できる仕組み。

出品者はこうしたデータ提供のメリットを認識し、月額約30万円(6カ月契約)をb8ta(ベータ)に支払います。そしてその情報を基に、商品やサービスをアップデートできるのです。

一方で、「売ることは目的にしない」となると、顧客はショールームのようにただ商品を見て触るだけで「あー楽しかった!」と満足してしまいそうな気もします。その辺り、本当に購買にまでつながるのでしょうか? さっそく私も8月某日、有楽町店に行ってみました。