リモートワークでとくに起こりやすい事例とは

ではリモートワーク時に受けた行為が6つのどれに当てはまるのか。さすがに在宅なので身体的な攻撃はないが、SOMPOリスクマネジメントは特に起こりやすいハラスメント事例を挙げている(「新型コロナウイルスにまつわるハラスメントとコンプライアンス体制」2020年5月22日)。

「精神的な攻撃」では「電子メール等により一度に多くの従業員に対し情報共有する際、特定の従業員の人格や能力を否定したり、罵倒する内容を送信」を挙げている。「人間関係からの切り離し」では「Web会議に一人の従業員を参加させず、孤立させる」「特定の従業員からの連絡に応じない」といったことが該当する。

「過大な要求」には冒頭で紹介したような「チャットアプリやPCのカメラ等の常時接続状態にするよう要求し、監視する」「業務時間終了や残業の確認のために遅い時間にチャットアプリで呼び出す、Web会議を設定する」行為も入っている。またオンライン飲み会に関しては「部下から終了を告げづらい状態のオンライン飲み会で、上司が自分の話を聞くよう要求する」行為も入る。

「個の侵害」には「リモート会議中に部屋や同居の家族等を見せるよう、しつこく要求する」ことが該当する。前述した「彼女を見せろ、奥さんを出せ」といった事例は個の侵害に当たる。

また、意に反する性的言動により不利益を与えるセクハラ行為の事例として「1対1のWeb会議を設定し、『在宅勤務で太った?』『今日はすっぴんなの?』『パジャマが見たい』など、職場ではしない発言をする」行為が含まれる。

証拠となる記録を残すことが重要

リモートワークの場合はオフィスと違い、たとえパワハラやセクハラ行為があっても1対1のオンライン面談や電話だと“密室”と変わらない状態ともいえる。問題が発生しても職場の同僚など第三者が見ているわけではなく、双方が言った、言わないというだけの曖昧な決着になってしまう可能性もある。たとえばオンライン会議の場合は録音・録画機能を使って証拠を残しておくのも1つの方法だ。

在宅勤務だと職場と違って緊張感が緩みがちになる。リモートワークでパワハラやセクハラを受けないためには決して気を許してはならない。前述した「精神的な攻撃」「過大な要求」「個の侵害」を受けた場合、今回の法律で義務づけられた会社の相談窓口に通報することだ。それでも聞き入れられない場合は都道府県労働局に相談することをお勧めする。その際、証拠となる記録を残しておくことも重要だ。

一般的に不況になり、企業業績が悪化するとパワハラ件数が増える傾向にある。コロナショックで業績が悪化するなかで今後はリモハラが増える可能性が大いにある。くれぐれも注意してほしい。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト

1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。