仕事を辞めるか、続けるか。ゼロか100の選択

もともと完璧主義で自分が頑張りさえすればと仕事を抱え込んでしまうタイプだった、とも振り返る。深川さんは社内でも病気のことを話さずにいたが、だんだん症状はひどくなっていく。専門病院を受診したところ、脳神経の病気と診断され、女性に多いこともわかる。薬では治らないので手術を受けることになり、入院をひかえて悩み抜いたという。

「自分の中では仕事を辞めるか続けるかという、ゼロか100の選択しかなかった。中途半端は嫌だったので仕事を辞めようと思ったのです。今、何を大事にしたいかと考えて、それが健康なのであれば、まずはしっかり休んでから先のことを決めようと……」

ところが、入院する直前に上司から昇進の話があった。全社で初の支店制度が立ち上がることになり、新しい役職の「支店長」に抜擢されたのだ。

思いがけない話に驚くが、上司には「ゆっくり休んでから戻ってくればいいよ」と励まされる。時おり心配して声をかけてもらった福田三千男会長にも入院の挨拶をすると、「待っているからね」と笑顔で言われた。

「私もやり尽くしたと思って辞めるわけじゃないので心残りがある。会社が好きという思いも強かったので、次へ向かう気持ちに切り替えられたのは大きいことでしたね」

復帰後は、毎日反省ばかり。部下の退職から学んだこと

一カ月半ほどの入院療養を経て復帰した深川さんは、関東地域を担当する。支店長の役目は各ブランドを横串でとらえ、マネジャーと連携して店舗をサポートすること。地域の活性化につながる取り組みも行っていく。出店に力を入れているエリアだけに責務は重く、「もう毎日反省ばかり。七転び八起きどころか、ずっと起き上がれずに転がっているみたいな感じで」とはにかむ深川さん。

支店長時代に特につらかったのは優秀な部下が一人辞めてしまったこと。長くブランドで活躍してきた彼女がひとり悩む姿も見てきたので、サポートしきれなかったことが悔やまれた。

「こんなポジションに就きたいという志向より、自分の得意なことを発揮して認められることでやりがいを感じる女性が多いようです。だから、まずはきちんと話を聞いて、何をやりたいのか、達成したいのかということを理解したうえで後押しをしていく。そうした共感力が大事だと思います。さらにリーダーとして向かうべき方向を示しながらも、やり方やペースは人それぞれ違うので、その人が取り組む課題の中でやりがいを感じられるように目を配っておくことが必要なのでしょう」