ファッションを通じて「エコ活動」も楽しく
グローバルワーク、ジーナシス、ローリーズファームなど、グループで30を超えるブランドがあり、国内外で約1400店舗を展開するカジュアルファッション専門店チェーン。「アダストリア」では、ファッションの世界を“サステナブル”にするための取り組みを行っている。
なかでも最近注目されたのが「REBAGシュウカン」だ。2015年度より省資源化の取り組みのひとつとしてマイバッグの利用を推進し、累計171万枚のショッピングバッグを削減してきた同社は、7月1日からスタートした「REBAGシュウカン」で、全国のアダストリアの店舗でエコバッグ50万枚を配布。さらに期間中は購入の際にマイバッグ利用でもらえるポイントを2倍付与するというキャンペーンで好評を博す。そのプロジェクトリーダーを務めた深川智子さんには、こんな思いがあった。
「ショッピングバッグを単に削減するだけでなく、エコ活動に気軽に楽しく参加していただきたいという思いがあります。ワクワクを大切にするアダストリアらしく、お客さまと一緒に、一歩ずつ、サステナブルなショッピングスタイルを創りあげていけるように取り組んでいます」
直感的な「いいな」がきっかけ
深川さんがアダストリアを志望したのは就活中のこと。なかなか職種も定まらず、うまくいかなかった面接の帰り、ふらっと立ち寄ったのがジーナシスのお店だった。
「そこで良い接客を受けたんです。イキイキと働いている従業員の方を見たら、直感的にいいなと思ってすぐに応募して(笑)。ジーナシスでもよく買い物をするようになり、すっかりファンになりました」
母親が着物の講師をしていて、身に装うものでその人の雰囲気や佇まいも大きく変わることを目の当たりにしてきたので、ファッションの持つ力を感じてはいた。学生時代はカフェでアルバイトしていたので、接客の仕事にも興味があった。そこでアパレルの世界へ入ったものの、いざ売り場に立つと最初はとまどいの方が大きかったようだ。
入社後に配属されたグローバルワークは、30~40代のファミリー層が主なターゲット。入社前に、自らが思い描いていた職場であるジーナシスの店頭とは全くカラーの異なるブランドで、年代も違う顧客とコミュニケーションを取るのは難しかった。
「私も生意気だったので……」と深川さんは苦笑するが、ぶつかりながらも夢中で取り組む姿を上司はちゃんと見ていてくれた。
2年後には店長に昇格。20代後半から30代前半の都心で働く女性向けのカジュアルブランドへ異動になった。ひとつの店舗を任されたことで、スタッフの個性を活かしながらチームをまとめることの大切さを学ぶ。一方、自分も教える立場になってようやく、接客の楽しさがわかったという。
「お客さまに『ありがとう』と満足して帰っていただけると喜びを感じます。そのためには自分の興味あることだけでなく、いろんな年代の方がどんなことに興味を持っているのかと常にアンテナを張ることが必要です。わずか10分、15分という接客の間に信頼関係を築くのはとても難しいことですが、なるべくその方の気持ちに響くような伝え方を心がけていました」
31歳で管理職に。充実する日々の中で突如感じた身体の異変
初めて管理職になったのは2013年、31歳のときだ。エリアマネジャーに昇格した深川さんは10数店舗を担当し、運営のサポートを任される。仕事も充実していたが、2年ほど経つと身体に異変を感じるようになった。
目の周辺がぴくぴく痙攣し、顔の半分が動かしにくくなっていく。それでも営業職で部下の指導をしたり、人前で話したりすることが多いので、その緊張から生じるのではと考えていた。時間が経てば治るだろうと思い、1年半ほどは病院へも行かなかった。
「当時はいろいろやりたいことで頭がいっぱいで、そこまでストレスを感じているともあまり気づかなかった。それよりも部下の方が心配でした。アパレル業は体力を使う仕事でもあるので、真面目に頑張りすぎて体調を崩す子も多いんです。自分のことよりも部下の子の体調はどうかと気にしながら、いつも働いていましたから」
仕事を辞めるか、続けるか。ゼロか100の選択
もともと完璧主義で自分が頑張りさえすればと仕事を抱え込んでしまうタイプだった、とも振り返る。深川さんは社内でも病気のことを話さずにいたが、だんだん症状はひどくなっていく。専門病院を受診したところ、脳神経の病気と診断され、女性に多いこともわかる。薬では治らないので手術を受けることになり、入院をひかえて悩み抜いたという。
「自分の中では仕事を辞めるか続けるかという、ゼロか100の選択しかなかった。中途半端は嫌だったので仕事を辞めようと思ったのです。今、何を大事にしたいかと考えて、それが健康なのであれば、まずはしっかり休んでから先のことを決めようと……」
ところが、入院する直前に上司から昇進の話があった。全社で初の支店制度が立ち上がることになり、新しい役職の「支店長」に抜擢されたのだ。
思いがけない話に驚くが、上司には「ゆっくり休んでから戻ってくればいいよ」と励まされる。時おり心配して声をかけてもらった福田三千男会長にも入院の挨拶をすると、「待っているからね」と笑顔で言われた。
「私もやり尽くしたと思って辞めるわけじゃないので心残りがある。会社が好きという思いも強かったので、次へ向かう気持ちに切り替えられたのは大きいことでしたね」
復帰後は、毎日反省ばかり。部下の退職から学んだこと
一カ月半ほどの入院療養を経て復帰した深川さんは、関東地域を担当する。支店長の役目は各ブランドを横串でとらえ、マネジャーと連携して店舗をサポートすること。地域の活性化につながる取り組みも行っていく。出店に力を入れているエリアだけに責務は重く、「もう毎日反省ばかり。七転び八起きどころか、ずっと起き上がれずに転がっているみたいな感じで」とはにかむ深川さん。
支店長時代に特につらかったのは優秀な部下が一人辞めてしまったこと。長くブランドで活躍してきた彼女がひとり悩む姿も見てきたので、サポートしきれなかったことが悔やまれた。
「こんなポジションに就きたいという志向より、自分の得意なことを発揮して認められることでやりがいを感じる女性が多いようです。だから、まずはきちんと話を聞いて、何をやりたいのか、達成したいのかということを理解したうえで後押しをしていく。そうした共感力が大事だと思います。さらにリーダーとして向かうべき方向を示しながらも、やり方やペースは人それぞれ違うので、その人が取り組む課題の中でやりがいを感じられるように目を配っておくことが必要なのでしょう」
今までの経験や人とのつながりがモノづくりに活きる日々
自身も店長からエリアマネジャー、支店長とそれぞれの場で達成してきたことが認められ、次の仕事に活かされていく。昨年、経営企画室へ異動した深川さんは、2名の部下とともにCSRに取り組み始めた。
ファッション事業は、生産過程での環境負荷やファッションロス(衣料品廃棄)の問題など、さまざまな社会課題を抱えている。そこで、アダストリアでは、社会課題と事業との関連性を考慮し、「環境を守る」「人を輝かせる」「地域と成長する」という3つのテーマを掲げて取り組みを行ってきた。
例えば環境を守る取り組みとして、オーガニックコットンなどのサステナブル原料の積極的な使用や加工方法の見直しなどを行っている。在庫を抱えて事業を行うという特性から生じるファッションロスに対しても、衣料品在庫の焼却廃棄をゼロにすることを決定し、在庫は新規ビジネスやリサイクル・リユースに活用するなど意欲的だ。そのほか、冒頭の「REBAGシュウカン」にも力を入れている。
また、深川さんはものづくりに携わるメンバーと連携しながら、新たなプロジェクトも企画している。そのひとつが任意団体コオフクとアパレルメーカー3社で取り組む「CO-FUKU masQ/コオフクマスク」だ。障がいのある人が抱えるマスクの困りごとや課題を理解し、新たな発想とアイデアでマスクをリデザインし、製品化するプロジェクトである。
「自分も病気を抱えていたことで、なかなか人に理解してもらえないことの大変さがよくわかる。そうした経験もあり、『人を輝かせる』というテーマにおいて、『自分らしくファッションを楽しめる社会』をビジョンに掲げているアダストリアのものづくりを活かすことで、その悩みやニーズに応えていけるのではないかと考えました」
そのような自らの気づきや思いを形にするとき、今まで築いてきた人とのつながりに助けられることも多く、すべての経験が今に活きていると実感するそうだ。
サステナブルに過ごしていくために心掛けるべきこと
サステナブルな事業を推進するならば、そこで働く人たちも長く活躍できる環境づくりが欠かせない。さまざまなストレスが重なり、一時は仕事を辞めようとまで考えた深川さんは、どう心がけているのだろう。
「自分の意思をきちんと伝えることで周りの人たちも支えてくれます。ひとりで解決できないと感じたことは抱え込まず、早めに上司や同僚に相談するなど、周りに頼ってやっていくということもコツなのかなと思います」
今はオフの生活も楽しんでいるという深川さん。運動で身体のバランスを整えたり、好きな料理で体調に合わせて食事を変えたり、「健康オタクかも」と朗らかに笑う。
自分のライフスタイルも“サステナブル”が肝心なのだろう。