直感的な「いいな」がきっかけ
深川さんがアダストリアを志望したのは就活中のこと。なかなか職種も定まらず、うまくいかなかった面接の帰り、ふらっと立ち寄ったのがジーナシスのお店だった。
「そこで良い接客を受けたんです。イキイキと働いている従業員の方を見たら、直感的にいいなと思ってすぐに応募して(笑)。ジーナシスでもよく買い物をするようになり、すっかりファンになりました」
母親が着物の講師をしていて、身に装うものでその人の雰囲気や佇まいも大きく変わることを目の当たりにしてきたので、ファッションの持つ力を感じてはいた。学生時代はカフェでアルバイトしていたので、接客の仕事にも興味があった。そこでアパレルの世界へ入ったものの、いざ売り場に立つと最初はとまどいの方が大きかったようだ。
入社後に配属されたグローバルワークは、30~40代のファミリー層が主なターゲット。入社前に、自らが思い描いていた職場であるジーナシスの店頭とは全くカラーの異なるブランドで、年代も違う顧客とコミュニケーションを取るのは難しかった。
「私も生意気だったので……」と深川さんは苦笑するが、ぶつかりながらも夢中で取り組む姿を上司はちゃんと見ていてくれた。
2年後には店長に昇格。20代後半から30代前半の都心で働く女性向けのカジュアルブランドへ異動になった。ひとつの店舗を任されたことで、スタッフの個性を活かしながらチームをまとめることの大切さを学ぶ。一方、自分も教える立場になってようやく、接客の楽しさがわかったという。
「お客さまに『ありがとう』と満足して帰っていただけると喜びを感じます。そのためには自分の興味あることだけでなく、いろんな年代の方がどんなことに興味を持っているのかと常にアンテナを張ることが必要です。わずか10分、15分という接客の間に信頼関係を築くのはとても難しいことですが、なるべくその方の気持ちに響くような伝え方を心がけていました」
31歳で管理職に。充実する日々の中で突如感じた身体の異変
初めて管理職になったのは2013年、31歳のときだ。エリアマネジャーに昇格した深川さんは10数店舗を担当し、運営のサポートを任される。仕事も充実していたが、2年ほど経つと身体に異変を感じるようになった。
目の周辺がぴくぴく痙攣し、顔の半分が動かしにくくなっていく。それでも営業職で部下の指導をしたり、人前で話したりすることが多いので、その緊張から生じるのではと考えていた。時間が経てば治るだろうと思い、1年半ほどは病院へも行かなかった。
「当時はいろいろやりたいことで頭がいっぱいで、そこまでストレスを感じているともあまり気づかなかった。それよりも部下の方が心配でした。アパレル業は体力を使う仕事でもあるので、真面目に頑張りすぎて体調を崩す子も多いんです。自分のことよりも部下の子の体調はどうかと気にしながら、いつも働いていましたから」