それは本当に「愛」なのか

しかし、本当にそれは「愛」なのか? 「愛するゆえの殺人」は、実は、ひとりぼっちになりたくないゆえの「所有欲殺人」、あるいは自分が傷つきたくないゆえの「自己愛殺人」なのではないだろうか?

21世紀の今日、ほとんどの男性が、女性パートナーを「自由意志をもつ他者」と見なし、「結婚も恋愛も合意の上に成立し、もしかしたらいつか終わるかもしれない」という不確実性を受け入れているはずだ。しかしこうした事件が2日に1回も起きているということは、相手の生死を選ぶ権利や、恋愛や結婚に対する永遠の既得権を信じている男性もいまだに存在することを如実に物語っている。

世界経済フォーラムの「ジェンダーギャップ指数2020」によればフランスは153カ国中15位であるが、(日本は121位)、これはあくまでも経済、政治、教育、健康の4分野からのデータから作成されているものだ。家庭の中で何が起きているかは、別問題である。

2017年に世界で起きた、女性が被害者となった殺人の58%が、現/元パートナーや家族・親族によるものであることから、国連は「家庭は女性にとって最も危険な場所」と警鐘を鳴らしている。家庭は女性にとって必ずしも、安全、安心なスイートホームではない。

プラド 夏樹(ぷらど・なつき)
フランス在住ジャーナリスト

慶応大学文学部卒業後、渡仏。在仏30年以上。共同通信デジタルEYE、駐日欧州連合代表部公式マガジンEUMAG、WAN、YAHOO!個人ブログなどに寄稿。労働、教育、宗教、性などに関する現地情報を歴史的・文化的背景を踏まえた視線から発信。著書『フランス人の性 なぜ#MeTooへの反対が起きたのか』(2018年、光文社新書)でフランスの性教育について紹介。共著に『日本のコロナ致死率は、なぜ欧米よりも圧倒的に低いのか?』(2020年、宝島社)、『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(2021年、光文社新書)。