妻の行動を監視、エスカレートするDV

妻は育児を理由に仕事を辞め、その頃から夫は本格的に妻の生活を管理し始める。「愛し合っているんだから、隠し事はなしにしよう」と言って妻の携帯電話の履歴を調べ、買い物のレシートをチェックするようになった。妻の携帯電話に位置情報共有アプリを設定し、2人の銀行口座を夫婦で1つにまとめるなど、じわじわと妻の行動を狭めるようになった。

妻の服装検査もするようになる。ミニスカート、襟元が大きく開いたものは捨て、レースの下着は週末に自宅でだけ着用できることに。妻は会計事務の仕事を再開したが、出勤用の下着は夫自らが1人で買いに行った。レティシアさんの妹は、「姉は、外出するときはダサいオバさん下着しか許されていなかった」と語る。

職場でのランチも、誰と食べるかを携帯電話で撮影して報告するように義務づけられる。仕事の後は同僚と一杯飲むこともなくまっすぐ帰るが、夫は妻の服を脱がして他の男性が触ったあとがないかを調べた。当然、スポーツクラブや習い事も禁止になった。

2017年、夫は、妻がSNSに若い男性同僚を登録したのを見つけ、夜には妻を責めて殴り、翌朝打って変わったように泣いて謝るということが5カ月続く。妻は首を絞められたあとや殴られてできた傷を隠すことができなくなり、職場を休みがちになる。

同僚から家庭内の事情を聞き出した人事課部長が、とうとうレティシアさんを呼び出した。「あなた、家で殴られているでしょう」と切り出すと、レティシアさんは「たった一度あっただけ」と夫をかばう。不審に思った人事課部長は警察に届け出る。

しかし、すでに疲労の極みにあったレティシアさんは抗不安薬を大量に飲み自殺未遂。警察が介入し、夫は精神科にかかることを義務づけられ、別居、そして接見禁止が申し渡される。

そして数カ月後、2人は協議離婚をすることに合意。ところが夫は、接見禁止令をものともせずレティシアさん宅の庭の物置で待ち伏せをし、子どもたちと新しい生活を築き始めたばかりの妻を殺害。逃亡した数日後、線路に飛び込んで自殺した。