「愛ゆえの殺人」は許されるのか?

これまで、パートナー間の殺人は、「情熱ゆえの殺人」と呼ばれ、愛しすぎてカッとなり殺してしまったというニュアンスがあり、社会でいくぶん許容されてきたきらいがある。

フランスの国民的ロック歌手、故ジョニー・ホリデーの歌に、愛人を殺して警察に追われ自殺する男をテーマにした『ある狂人へのレクイエム』(1976年)があるが、サビの部分は次のような歌詞だ。

彼女の身体は俺の人生そのものだった
愛しすぎて、俺のモノにするために殺してしまった
偉大な愛が永遠に続くために、俺も死ぬ

今でもフランスでは、カラオケでみんなが声を合わせて歌う人気の曲だが、このように、フェミサイドはどこかしらロマンチックなものとして美化され、文学、演劇、歌のテーマとして取り上げられてきた。

歴史的に見ても、特に男尊女卑が激しかった19世紀にナポレオンが制定した刑法典324条(1810年)で、自宅に愛人を連れ込んだ妻を夫がその場で殺すのは「情状酌量の余地あり」とされていた。この法律は1975年に廃止されたものの、「妻は夫の所有物」という意識がいまだに社会の根底で綿々と続いていることは否定できない。

「シルビー通り。2019年1月30日に、シルビー(1962‐2019)が元パートナーに殺された」パリ20区、クロンヌ通り(撮影=プラド夏樹)
「シルビー通り。2019年1月30日に、シルビー(1962‐2019)が元パートナーに殺された」パリ20区、クロンヌ通り(撮影=プラド夏樹)

「予告された殺人」フェミサイド

6月初め、ル・モンド紙は「フェミサイド、その真相」という特集を組み、フェミサイド特有のメカニズムを解き明かした。1年間をかけて2018年に起きた120件あまりの事件を分析し、「カッとして」突然起きる犯罪とはほど遠い、長年の精神的・身体的暴力の結果であること、また、それゆえに「予告された殺人」であり、周囲の人々が意識をすれば防ぐことができる可能性もあることを明らかにした。そこで、同紙の記事から一例を引き、そのメカニズムについて説明したい。

「熱愛」から始まった2人の関係

2018年6月25日、朝、中学校に長男を送って帰宅したレティシア・シュミットさん(36歳)はフランス北東部、バ・ラン県の自宅の入り口で、別居中の夫に約20回以上ナイフで刺されて殺された。

レティシアさんがジュリアンさんと出会ったのは1999年、2人が17歳の時だった。一目惚れの熱愛カップルで、彼は彼女に、誰に会ったか、どこへ行ったかなどを毎日詳しく聞きたがった。彼女もそれを「愛してくれている証拠」と思って受け入れていた。

付き合い始めてから7年後、レティシアさんが会社の同僚とバーベキューをして家に遅く帰ると、ジュリアンさんが真っ青になって怒り、つかみかかってきた。別の男と会っていたのではないかと嫉妬したのだ。そしてそれをきっかけに身体的暴力が始まる。

2008年、カップルに第一子が生まれると、これをきっかけに田舎に引っ越す。そして2010年、2人は結婚する。28歳の時だった。