習慣3:身体を使う

武神健之『外資系エリート1万人をみてきた産業医が教える メンタルが強い人の習慣』(PHP研究所)
武神健之『外資系エリート1万人をみてきた産業医が教える メンタルが強い人の習慣』(PHP研究所)

不安とは、「未来」に対する「恐怖」であり、「漠然」としたものです。ここでは、“恐怖”という感情に着目し、上手に対処している人たちの習慣をご紹介します。恐怖は人が持つ原始的な感情です。ですから、ヘビに出くわしたらギョッとしてしまうように、どんなに備えていても恐怖を感じてしまうのは仕方がないのです。そして恐怖を感じたとき、身体は緊張します。

大切なのは、この緊張した気持ち、硬くなった身体、縮こまった筋肉などをどのようにほぐすか、リラックスするかです。不安に上手に対処できている人たちは、その都度、身体を使うことで、緊張を緩和しています。その代表的な身体の使い方は3つあります。

①有酸素運動やリズム運動

水泳、ジョギング、エアロビクスなどの有酸素運動や一定のリズムを伴う運動をすると、脳内でセロトニンが増加すると言われています。セロトニンはハッピーホルモンとも言われ、近年、多くのうつ病患者の脳内で不足していることがわかり、注目が集まっている神経伝達物質です。セロトニンには心身の緊張を和らげる働きもあり、これが増えることにより恐怖で緊張した気持ちを落ち着かせてくれているのかもしれません。

たとえば、ガムを嚙むのもリズム運動の1つ。よくメジャーリーグの選手が試合中にガムを嚙んでいるのを見かけますが、嚙むことで不安や緊張を紛らわせているのでしょう。

②100メートルダッシュ、筋トレなど強めの運動

人は何かの行動に集中しているとき、他のことに悩んでいる暇はありません。ダッシュをしているときに、昨日の喧嘩のことは思い出せませんし、腕立て伏せをしている最中に、明日の会議のことを考えるのは、なかなか難しいことです。つまり、強めの運動をしているとき、人は不安なことを忘れているのです。

また、強めの運動負荷で筋肉がダメージを受けると、その修復のために成長ホルモンやアドレナリンなど、抗ストレスホルモンが多く分泌されます。そして壊れた身体(筋肉)を修復したり、負荷に対する耐性をつくってくれたりします。

強めの運動負荷で積極的に抗ストレスホルモンを出し、緊張した身体を修復し、さらに耐性をつける。不安に悩まない人たちは、意識するしないにかかわらず、こうした習慣を持っているのです。

③身体を動かさずに、その場でできる静止運動

たとえば、瞑想や深呼吸をしているとき、人は自律神経の副交感神経が優位になります。そのとき、緊張時に優位になる交感神経は活動が抑えられるのです。

瞑想や深呼吸の他にも、姿勢を正したり、笑ったり、動作や姿勢、表情を意識することも、静止運動に含まれます。姿勢を正すと気持ちがシャキッとしたり、口角を上げると気分が上向いたりと、姿勢や表情を意識して変えるだけで気分が変わってくるということは、誰にでも経験があることだと思います。他にも最近では「笑いヨガ」なども普及してきており、笑うことの効果が広く知られるようになりました。

中でも私が個人的におすすめしたいのは、「上を向く」ことです。すぐに実践できて効果も抜群です。電車やエレベータ内など、最近は少し時間があると下を向いてスマホをいじっている人を数多く見かけます。道を歩いているときなどに、試しに空を見上げてみてください。人は上を向きながらだとなかなか憂鬱な気分にはなれないものです。

写真=iStock.com

武神 健之(たけがみ・けんじ)
医師

医学博士、日本医師会認定産業医。一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。ドイツ銀行グループ、BNPパリバ、ムーディーズ、ソシエテジェネラル、アウディジャパン、BMWジャパン、テンプル大学日本校、アプラス、アドビージャパン、Wework Japanといった大手外資系企業を中心に、年間1000件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を実施。働く人の「こころとからだ」の健康管理を手伝う。2014年6月には、一般社団法人日本ストレスチェック協会を設立し、「不安とストレスに上手に対処するための技術」、「落ち込まないための手法」などを説いている。著書に、『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書』や『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣』『外資系エリート1万人をみてきた産業医が教える メンタルが強い人の習慣』などがある。公式サイト