──事件について考えるとき、右京の頭の中にはどんなことが浮かぶのでしょう。
水谷 事件は結局は人が起こしていることですよね。だから、人はどんなときにどう考え、どう動くのか、何を欲し、何をいらないと思うのか、そういうことが右京はかなりわかる人間じゃないかと思います。気の流れがいち早くわかるというか。右京は人間というものを非常によく知っている。ということは、右京自身の中にもすごく人間的なものがあるということですね。本能に近い人間的なものが。
──右京というと論理的でクールな印象がありますが、同時に本能的な面も強い。
水谷 はい、バランスがいいですよね、右京は。ええ、本当にいいと思いますよ。
──仮に杉下右京がビジネスマンだったら何が向いているでしょう。
水谷 そうですね、右京は何が似合いますかね……意外と営業なんかやらせたらうまいんじゃないかと思うんですけどね(笑)。ビジネスの場合、やはり、人を引きつけることが基本ですよね。人は何に心が動き、何を求めるのか、そのとき自分は何をすればいいのか……そういうことを考えるのは右京は好きかもしれません。となると、新しい製品をつくる仕事にも向いていますね。右京は意外とビジネスに向いているかもしれませんよ(笑)。
──バランスといえば組織に対しても反発するだけでなく、従うときは従います。
水谷 ええ、ぼくが右京はいいなと思うのは、必ずしも組織を無視して一人で走るわけではないところなんです。右京は個人が組織に対してどこまで立ち向かえるかという限界もちゃんとわかっています。わかっているから、限界ぎりぎりまで組織に立ち向かうことができる。だから、事件を解決したり、犯罪を防ぐため、組織の内規を破っても誰にも迷惑にならないときはそっちをとることがあります。
その一方で、組織でなければできないこともわかっています。ある事件に向かっていて、ここまでたどり着きたいと思うとき、個人の力では限界があれば、組織を使います。官房長(元上司の小野田・警察庁官房室長)がいますからね。いざというときは動かす。右京の場合、何が何でも組織の力を借りずに自分でやるんだということはない。決してヒーローにはならない。それがいいところだなとぼくは思います。
──とすると、特命係は警察組織の中でどういう存在だと思われますか。
水谷 なんだかんだいわれながら、特命係はある意味、組織に利用されていると右京はわかっていると思いますよ。それがたまたま右京の目指すものと一緒のときはそれでいいと思っている。でも、組織の動きがまったく違った方向にあるときは、警察の内部にも入り込んでいかなければならないと考える。警察の中の不祥事をあぶり出すようなこともしていますよね。そのあたりが(右京らしさだと)ちょっとわかってもらえるところかもしれませんね。
※プレジデント社のムック『謎解きの発想術』より転載。
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