バブル期の日本で起きていたこと
さて、バブル後の停滞期に日本で何が起きたかは、もう話すまでもないだろう。日本型雇用の崩壊、リストラの横行、就職氷河期、非正規の膨張、課長になれる割合の低下……。そんな辛い状況が起きた。
その数年前、バブルで沸く時期には、熾烈な人材獲得競争から、企業は盛んに労働者に甘い顔をして見せた。たとえば平成元年は「時短元年」とも呼ばれ当時は「完全週休2日を取り入れました!」というのが求人広告の合言葉にもなっていた。同様に、1980年時点では60歳定年制をとる大企業は27.6%しかなかった(多くは55歳定年)ものが、1990年には90.6%にも伸びている。
1986年には男女雇用機会均等法も施行され、大企業が晴れて総合職女性の大量採用を行った結果、(均等法)第一世代などという言葉まで生まれた。
メセナ(企業による非営利社会活動)などという言葉が生まれたのもこの当時で、1989年の大塚ホールディングスによる図書提供事業がその第一号といわれている。
おまけに1986年からは社会保障改革により、サラリーマン家庭の専業主婦にも3号保険というかたちで本人は無償で年金が拠出されるようになる(それまでは個人の任意加入)。同改革では従業員数30人未満の小規模企業まで社会保険加入が義務付けられる。
これらはすべて企業負担の増加であり、にもかかわらずそれを良しとしたことには、第一に企業寄りの中曽根政権があったこと、第二にジャパン・アズ・ナンバー1時代で企業に体力があったからだと言えるだろう。
まさに、至れり尽くせりの時代だったことがお分かりいただけるだろうか。
不況が来ると一気に手のひらを反すのが企業というもの
つまり、企業とはそういうものなのだ。好況期で金が余り、しかも求人需要が増える時期には、「世間、とりわけ求職者」に甘い顔をする。そして、不況が来ると手のひら返しで真逆に動く。利益を追求するのが私企業なのだから、それをあえて批判はしない。が、企業とはその程度の身勝手で変わり身が速い存在だ、ということは頭に置いておきたい。
日本だけでなく、産業史を見れば全く同じことが世界各地で繰り返されてきた。たとえば、第一次世界大戦中の人手不足期に、アメリカでは短時間労働・各種手当などを売り物にする企業が多数現れた。彼らは「ウェルフェア・キャピタリズム(福祉資本主義)」とうそぶき、自らが福祉精神で社員をいつくしむ存在なのだとアピールしていたのだ。そして、その舌の根も乾かないうちに、世界大恐慌を迎えて、彼らは平然と大リストラを強行していく。アメリカの労と使が決別した原点にはこうした原風景があったのだ。