経団連の会合も出席者はほとんど男性だが……
【白河】情報開示しない企業は、自らイノベーションのチャンスをつぶしているのかもしれませんね。
【柄澤】そう思います。イノベーションの父と呼ばれる経済学者のシュンペーターは、既存のモノや生産手段などの「新たな結合」がイノベーションを生むのだと説いています。現代に置き換えれば、多様な人が持つさまざまな知の結合がイノベーションにつながるということです。しかし、日本企業では、多様性を活かすどころか、高い同質性が影響して、「女性は男性より能力が低い」といった誤ったアンコンシャス・バイアスや、世の中のニーズを汲み取れず既存技術の改良のみに拘る姿勢、マイノリティー市場の見過ごしといった事象が多々見られます。ダイバーシティが他国に後れを取っていれば、イノベーションも同じことになるのは当然のことでしょう。
【白河】やはり鍵は多様性にあるのですね。しかし、TVなどで経済団体の集まりを見ると出席者はほとんどが同じような年齢の男性です。経団連も女性役員は審議員会副議長の浅野邦子さんだけで、全体としては同質性がとても高いですよね。この現状をどう思われますか?
【柄澤】経団連は企業の代表の集まりですから、現時点では男性が圧倒的多数を占めている状況です。ただ、このままでは絶対にダメで、できる限り早く多くの女性に入っていただかなければ。女性の管理職や役員、社長の増加に取り組んでいるのもそのためです。日本企業の現状を変える役割を経団連が担うべきです。
多様性のない企業は淘汰される時代に
【白河】トップの方々がしっかりと意識を持つことが大切ですね。近年ではジェンダー投資も注目を集めていて、「男女平等度が低い企業には投資しない」という投資家も増えているようです。これについてはどう思われますか?
【柄澤】投資家の方々にとって、今は企業の男女平等度も重要な物差しの一つ。男女平等度が高ければ、成長が見込めるから自信を持って投資できるということになります。海外投資家には、女性リーダーが圧倒的に少ない日本企業を見て「どうやって女性の意見をくみ上げているのか」といぶかしむ人も多いと聞きます。今や、多様性のない企業は世界から「成長戦略を持っていない」と見なされる時代。私は、そうした企業は今後淘汰されるだろうと思っています。企業も日本経済も、成長の鍵は女性にある。女性活躍推進は、そうした覚悟で取り組んでいかなければなりません。
【白河】なかなかそこまで覚悟のほどを語ってくださる方はいないので、非常に心強く思いました。女性活躍の意義を明確に言語化していただいて、私も腑に落ちました。ありがとうございました。
構成=辻村洋子
1975年、京都大学卒業。住友海上火災保険(現・三井住友海上火災保険)に入社。執行役員経営企画部長、常務、専務を経て、2010年に代表取締役社長に就任。14年6月MS&ADインシュアランスグループホールディングス取締役社長を経て17年4月より現職、16年より三井住友海上火災保険にて現職。経団連においては女性の活躍推進委員長を経て現職。
1961年生まれ。「働き方改革実現会議」など政府の政策策定に参画。婚活、妊活の提唱者。著書に『働かないおじさんが御社をダメにする』(PHP研究所)など多数。